近くに ページ9
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あぁ、今日も良いネタだった。
良いネタだった、というのはあまりに上から目線な気がするけれど、そんな、自称 お笑い評論家 みたいな感想を抱いてしまうほどにそれはそれは面白く、和牛さんらしく、素晴らしい漫才だった。
余韻に浸りながら 楽屋へ戻ろうと歩きはじめたその時、
「あ、ちょっと、すみません」
右肩をトントンと叩かれ、振り向くと、すぐ近くに“憧れ”がいた。
『うわぁ!え!?お、お疲れ様です』
川「お疲れ様です。芸人の方ですか?」
『はい、大阪NSC37期生の…』
川「そっか。いっつも、袖で見てくれてるよね?」
『はい!…あ、すみません、ネタのお邪魔になってましたか?』
川「あぁ、いや、そうやなくて。嬉しいなぁって思って」
二人並んで、楽屋へゆっくりと戻る。
初対面の、まだ名前も知らない私に、その人はとても優しかった。
川「俺も、若手の頃は先輩のネタを袖で見て勉強してたから。自分が“見られる立場”になったんやと思ったら、何か感慨深かってん」
『和牛さんの漫才、大好きで。今日のネタもすごく面白かったです』
川「ありがとう。嬉しいわ」
楽屋に入ると川西さんはすぐにスタッフさんに呼ばれて、急いでそちらに向かっていった。その途中、
川「あ、これからもよろしく」
なんて、わざわざ振り向いて言ってくれるもんだから、より一層好きになってしまったのだ。人として。こんな人になりたい、と心から思った。
相「え、川西さんと喋ったん」
しばらくその場でぼうっとしていると、どこからか突然 相方がぬるっと現れた。
『あ、見てた?』
相「どこ行ったんかと思ってたら二人で来たからびっくりしたわ」
『袖でネタ見てたんバレてん』
相「何やってんねん笑」
『何か感謝された』
相「マジ?優しすぎちゃう?」
『ほんまにな』
相「えー、いいなぁ私もお近づきになりたいな」
『やめとけやめとけ』
相「何なん自分だけ、ずるいで」
『私より仲良くなるなよ絶対』
相「うわー独占欲強いタイプの厄介ファンやないっすか、お疲れっす」
『だまれ』
私はいつもそうだ。一番 をとにかく好む。
今から川西さんの一番の友達になんてなれるわけないとわかっている。わかっているけれど、せめて身近な相手には負けたくない。相方なら尚更。
特別な人 と近しい存在でありたいのだ。できるだけ。
相「仲良くなれたらええな」
『やな』
まだ、自己紹介もしていなかったその頃。
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作者名:哀 | 作成日時:2022年1月26日 11時