検索窓
今日:4 hit、昨日:7 hit、合計:26,346 hit

ファン ページ5

·


『イタリアンも良いですけど、居酒屋も良いですね』

川「そうやな、やっぱ居酒屋が俺には合ってるわ」

『ちゃんとイタリアンも似合ってはりましたよ』

川「Aちゃんもね」


そんなことを言いながら、二人で枝豆をつまむ。

隣の席から漂ってくる煙草の煙に、昔の川西さんの姿が過った。


そして、今の川西さんを見る。

何やらぼーっとしていて、目の焦点が合っていない。


『あれ、何かありました?』

川「んー…え?」

『いや、何かぼーっとしてたんで』

川「あぁ、いや、別に?」


慌てて枝豆を手に取るその仕草が、妙に引っかかる。


川「Aちゃん、最近ネタの調子はどう?」

『あー、まぁぼちぼちですね』

川「キングオブコント、今年は決勝行けるんちゃう?昨年も惜しかったやん」

『もう出るんやめたろかって何回も思ったんですけどね、そこに全部の照準合わせてやっていくんしんどすぎるし。でも絶対今年も出ると思います』

川「もうちょっと、って思ったら余計やめられへんよね」

『一回は決勝行きたいんですよねー、せめて』

川「ほんで決勝行ったら今度は優勝したいって絶対言うで笑」

『絶対言ってるわ笑 自分でもわかりますもん』

川「ははは笑」



川「わかるよ、その気持ち。」



その遠くを見つめる目が、川西さんの過去の重みを映していた。


川「絶対優勝できる、なんて無責任なことは言えへんけど」


同じ経験があるからこそ、闘う後輩に向けるその人の笑顔は、これ以上ない程に優しい。


川「ルートロットのコントは、間違いなく面白いで」


『…ありがとうございます』



そういう、真っ直ぐに優しい言葉をかけられると、すぐに涙腺が緩んでしまうようになった。私も もう歳だろうか。

目に浮かんだ涙を抑えるために、瞬きをせず、少し上を向く。
照明の温かい色が眩しかった。


『川西さんはどうですか、ネタ』

川「うん、楽しくやれてるで。何か一気に身体が軽くなったっていうか」


“漫才王者 本命”の重圧は、私には想像できないほど重く、苦しかっただろう。

しかも、それが三年も続いたなんて。



『川西さんのやりたい漫才がやれてるなら、私は幸せです』

川「Aちゃんが?何で?笑」


『和牛さんの漫才が、大好きなんで』


川西さんは目を細めて笑った。


川「ありがとう」


噛み締めるように言って ビールを飲む姿に、
この人のいる世界に生まれてきてよかった、と思った。

そんなの、大げさだろうか。


·

友だち→←人間味



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (56 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
167人がお気に入り
設定タグ:鯨人
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名: | 作成日時:2022年1月26日 11時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。