任せて ページ12
Daigo side.
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ながみさん、ごはんいきましょ
楽屋で顔を合わせたと同時に声をかけられ、理解が追いつかないままに あ、うん、と ふわふわと返事をした。
『どうしたん、急に』
「何がですか?」
『Aさんが誘ってくれるなんて珍しいなぁって思って』
「別に、普通に永見さんとごはん食べに行きたいって思っただけですけど」
『僕と?』
「はい、永見さんと」
永見さんと、ごはん食べに行きたい。
確かにその人から発せられた言葉を反芻して、胸にそっとしまい込む。
『うん、僕も行きたい』
やったぁ、決まり。
特段嬉しそうな感じでもないけれど、Aさんは目尻を下げてやさしい表情でそう言った。
『どこ行く?』
「永見さんの行きたいとこがいいです」
『ええ、僕?』
「永見さんのお気に入り、私に教えてください」
そんなの、Aさんになら、いくらでも。
『じゃあ…中華とか、嫌いじゃない?』
「へへ、好きです」
『…あぁ、うん、よかった』
勘違いばっかりだ。
そのときAさんの口から出た“好き”は、間違いなく中華料理に向けられたものであって、間違いなくその対象は僕ではなくて、それはわかっていて、それなのに、こんなにも鼓動が速くなる。
「いつ行けます?このあと出番は?」
『あ、いや、さっきのでもう終わり』
「私も、もうなんもないです」
上目遣いで視線を送る彼女は、いつもよりすこしソワソワしていた。
『…早く行きたいん?』
「あ、バレました?もうね、お腹すいちゃって笑」
『ふふ、じゃあもう出よか』
そう言うと、Aさんは急いで荷物をまとめて僕の隣にぴたりとついた。
「ふふ、今日は永見さんにおまかせコースですね」
『そうやね、張り切っていくわ』
「そんなキャラちゃうでしょ笑」
僕におまかせ、ということはつまり、全部僕の思うまま、ということなのか。
“おまかせ”が頭の中をぐるぐる回って、ふと横の君を見る。
おまかせ。
すべてを委ねられると、それはもう逆にとても困ってしまって、そして考えを止められなくなってしまう。ごはんを食べて、それから?その後は?
いったん想像して、自分が臆病でよかった、と思った。そんな想像を実現するなんて、とても無理な話だった。Aさんの気持ちを無視して我がままに動く自分でなくてよかった。
『じゃあ、今日は僕に任せて。おいしいもんご馳走するわ』
「楽しみやなぁ」
大切に、大切にするんだ。この人のこと。
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作者名:哀 | 作成日時:2022年1月26日 11時