未来へ ページ11
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泣きながら、ただ まとまりのない言葉を口にした。
櫻井さんはそんな私をやさしい目で見守りながら、時折頷いた。
一通り話し終えると、櫻井さんは空になった私のジョッキを見てお代わりを頼んだ。今日はいっぱい飲ませてくれるらしい。
『…すみません、話すの下手で』
櫻「ううん、全然。…がんばったな」
私は、何を“がんばった”のだろう。
憧れの背中を追いかけて、最大限の気を遣いながら言葉を交わして、やさしい川西さんに甘えて、
本当に身勝手な恋だったと思う。
『何も、努力してないです、私は』
櫻「…でも、恋愛をするのってすごく体力使うし、すごく心をすり減らさなあかんと思うねん」
櫻「俺は、それだけで十分努力してると思うよ」
ずるいなあ。普段はあんなに冷たいのに、こういうときだけはとても優しい顔をする。
櫻「だいぶ…つらいと思うから、まだすんなり噛み砕けへんと思うけど、いつかは“良い経験”って思えるようになったらええね」
『今でも、思えますよ。良い経験やったなあって』
櫻「ほんまかなぁ」
『ほんまですって笑』
櫻「強がるんは良くないで」
『そもそも、ダメもとで好きになってるんで。憧れの人と二人で出かけられるくらい近しい関係になれただけで十分幸せ者ですよ、私は。』
櫻「言ってることは頼もしいんやけどなぁ」
『言ってること“は”って何ですか』
櫻「だって、ずっと泣いてるやん」
『…錯覚ですよ』
櫻「どんな錯覚やねん」
『目の錯覚です』
櫻「そんなわけないやろ」
良い経験だったと思っているのは本心で、けして嘘ではない。
川西さんに特別な感情をもってからこれまで、好きにならなければよかった、と思う瞬間があまりにも多かった気がするけれど、それでも、時々感じる"やっぱりこの人を好きでよかった"という気持ちは、それ以外のつらい気持ちをいとも簡単に飛び越えていってしまうのだ。
『まだ、ちゃんと切り替えられるかどうかはわかんないですけど』
櫻「うん」
『私、たぶん、前よりずっと強くなれると思います』
櫻「うん、…俺もそう思う」
運ばれてきた満杯のビールを受け取って、櫻井さんのウーロン茶と乾杯した。
今、この瞬間の悲しみは、きっと私の未来の糧になる。
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作者名：哀 | 作成日時：2022年1月26日 11時
