54.三毛縞斑 ページ6
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幼稚園の頃の記憶なんて曖昧だ。
一緒に遊んでいた友達はもう名前すら思い出せないくらいだし、どれくらい仲良かったのかすら思い出せない。
結論、三毛縞斑って誰
「なんで思い出してくれないんだぁぁああ！」
『うるさいです三毛縞先輩』
「三毛縞先輩なんて寂しい呼び方はよしてくれAさん！昔のように俺のことは��斑くん��って呼んでくれ！それがダメなら��ママ��と呼んでくれ」
『先輩にそんな呼び方出来ませんし僕のママは一人だけですので呼びたくありません』
僕と幼馴染だと言い張る三毛縞斑。うざい。
隙あらば抱っこしてくるスキンシップ激しめの先輩はどことなく守沢千秋に似ている。
……いや守沢千秋の方がまだマシだ。この男、三毛縞斑はまさかのタカイタカーイをしてくる。やめてほしい。
『……三毛縞先輩、きっと誰かと見間違えてるんですよ』
「いや、AさんはAさんだ」
『同じ名前なんて何処にでもいますよ。世の中には自分と顔立ちが似ている人が３人もいるといいますしね』
「３人しかいないんだろう？ならAさんを見つけるのなんて簡単な事なんじゃないか？」
彼は何を根拠に僕を��Aさん��と決めつけるのだろうか。
……僕は��斑くん��なんて知らない
『……というかよく幼稚園の頃の友達を憶えていますよね。僕はもう思い出せません』
「俺もAさん以外覚えてない」
『何故僕だけ贔屓なんですか』
「Aさんは特別だからな。何十年経ってもAさんとの思い出は脳裏に焼き付いてるしな」
『……君、何故そんなに一途でいられるんだ？』
疑問に思っていたことを息を吐くように吐き出せば三毛縞斑はただ微笑むだけだった。
次いつ会えるかわからない相手に何十年も想いを馳せるなんて難しい話だと僕は思う。何故彼はこんなにも前向きに生きられて、どんな気持ちで数十年を過ごしてきたのだろう。
「俺はAさんのことが大好きなんだ」
『……！』
「大好きな人をそう簡単には忘れられないよ」
この時、僕は焦った
もし本当に三毛縞斑が言う��Aさん��が本当に、本当に僕だったらどうしよう、と。
そうだとしたらもう彼に顔向け出来ない。こんなにも一途に想ってくれる人がいたのに何故僕は忘れてしまっているのだろう。しかし今更思い出したとしても全てが遅すぎる。
だから、僕は知らないふりをした。
思い出そうとする努力すら投げ捨てたのだ。
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作者名：冬雪
| 作成日時：2019年4月17日 23時
