61.椚章臣 ページ13
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「花野さん」
『ん？あ、椚先生』
「何をしてるんですか？」
『影踏みならぬ日光踏みです。廊下に窓の形で反射した日光の光がありますよね？それを踏みながら教室に戻るというゲームをしていたんですよ』
「貴女って時々変なことしますよね」
弟の手作りである愛妻弁当ならぬ愛弟弁当を忘れてしまった僕は購買でサンドイッチその他諸々を買い日光踏みをしながら教室に戻ろうとしていた。
椚章臣に呆れたような溜息を吐かれたがこれ意外と楽しいのだ。なんていうか童心を思い出す。
「そういえばまだ聞いていませんでしたね」
『何をです？』
「専属ユニット、そろそろ決めましたか？」
間
「……まさか決めるのを忘れていたとか言わないでしょうね？」
『……普通に忘れていました』
「そんなんでは困りますよ」
『椚先生に慈悲である１ヶ月の猶予をもらった時はまだ覚えていたんですが日々、彼らと接することが波乱万丈過ぎて正直専属ユニット考えるのはそっちのけでしたね』
「……それは解りますが」
『だって彼らと過ごすの凄く楽しいんですもん』
僕がそう言うと椚章臣は口を閉ざした。
この２ヶ月間、楽しいこと、悲しいこと、面白いこと、イラついたことが沢山あった。彼らによって僕の枯れかけていた感情が復活したのも同然に、僕はこの日常を手放したくないと思えた。
『プロデューサーは遊びじゃないってことくらい理解してます。それでも僕は彼らと話したいし輝かせたい。贔屓も専属も抜きにして全員同等に』
「……では専属は決めないんですか？」
『はい』
僕はハッキリそう言った。
すると椚章臣は初めて僕に笑みを浮かべた。
「貴女も笑うんですね」
『え、僕も笑ってました？』
「お互い表情筋が硬すぎて駄目ですね。でも貴女は笑いなさい。表情豊かな方が貴女らしいです」
『……善処します』
驚いた。椚章臣も本気を出せば女性を口説けるような言葉を出せるというのか。やはり堅物眼鏡な彼も男というわけだ。
「昼休みの途中でしたね。すみません呼び止めてしまって」
『いえ、決める事を決められて良かったです』
「そういえば全ユニットのプロデューサーになった決め手は一体なんだったんですか？」
『愚問ですよ椚先生。そんなの今を全力で楽しむためにきまっているじゃないですか』
僕は笑顔でそう言った。
これは５月の末の出来事。好奇心旺盛な僕は母親のため、そして彼らのために最高のプロデューサーを目指すのだ。
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作者名：冬雪
| 作成日時：2019年4月17日 23時
