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夜中に王子の部屋に忍び込み銀のナイフを握りしめながら彼に近付く。
眠っているのを確認して彼の上に跨り心臓部分にナイフを突き立てる。カタカタと震えるのを抑えてナイフで刺そうとした時だ。
「君が夜襲を仕掛けるとは思わなかった」
腕を絡め取られて驚いた拍子にナイフが床に落ちてしまって焦る。
王子は薄ら笑いを浮かべながら片方の手を僕の腰に回して固定した。
「で?何故俺を殺そうとした?」
彼は殺されそうになったというのに笑顔のままだった。それがとても怖い。
「ああ、喋れないんだったな。なら紙に事情を書け」
サイドテーブルの傍にあったペンと紙を目の前に突き出される。
……事情を話して、分かってもらえるかな。貴方を助けたのは僕だと。
僕はペンを使って紙に詳細を書いた。人魚の姿で王子を助けた事、魔法使いに人間にしてもらった代わりに声を失った事。王子を殺さないと僕が泡になって消える事。
それを読んだ王子は見る間に青ざめて行く。
「君が、俺を……?」
信じられない様な目で見る彼にやっぱり信じて貰うのは無理だったのだと落胆する。
『ごめんなさい。もう二度と貴方の前に現れません』
そう書いたのを見せてから彼から離れようとしたけど、彼は一向に離してはくれなかった。
戸惑いながら彼を見ると感情が抜け落ちたアイスブルーの瞳と視線が交わる。
「俺の元から居なくなる?そんなバカな話があってたまるか」
王子は乱暴に僕の下顎を掴むとキスをした。
突然の事に思考が追い付かず彼に為すがままにされ抵抗もしなかった。
「俺を助けたのが君だと気付いていたら、あの女と婚約をしようとは思わなかったのに」
彼の言う言葉に若干驚いていると、彼は困った様に微笑う。
「俺をどうやって助けたのか訊くと、曖昧な事ばかり言って信用出来なかったんだ。若しかしたら恩人は別の人なんじゃないかと」
……彼がそう考えてたなら、もっと早く真実を話せば良かった。
「ごめんなさい……え?」
声が、出る。まさか呪いが解けたの?
王子も初めて聞く僕の声に唖然とする。けれど直ぐにベッドに押し倒された。
「失った声が戻ったなら、もうAが消える事はない。俺と結婚しよう」
優しい声音に泣きそうになりながらもなんとか頷く事だけが出来た。
王子は蕩ける様な笑顔になり、額に口付けた。
「ずっと気付かなくて済まなかった。これから君を大切にすると約束する」
こうして人魚姫は、泡にならずに済みましたとさ。
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