人魚姫の恋。 ページ8
彼が隣国の王女と仲睦まじく話す姿を見てまた胸が痛む。
彼を助けたのは僕なのに……
彼が海で溺れているところを
けれど何故か彼は目を覚ました時に傍に居た王女を命の恩人だと思い込んだ。
それが悔しくて魔法使いに頼み込み人間の姿にしてもらった。
代わりに声を奪われたけど、これで彼に会える。そう思ったのに王子は王女しか見ない。
貴方を助けたのは僕なのに。気付いてよ。
城の与えられた部屋で悲しみに暮れているとノックの音が響いた。
顔を上げれば王子が心配そうな表情をして立っていた。
「A、食事を取らなかったと聞いたが、大丈夫か?」
今日は何かを食べる気がしなくて朝食を拒んだ。それは図らずも彼の気を引く事に成功したらしい。
声が出せないので頷いて見せると、彼は綺麗な顔に陰を落とした。
「ちゃんと食べないと駄目だろう。君は痩せ過ぎだ」
王子の言葉に首を傾げながら自分の身体を見下ろす。言うほど痩せてるだろうか。
彼は僕を優しく抱き上げベッドに運んだ。彼は僕を妹の様に扱う。
決して王女の様には接してくれない。
魔法使いが言うには王子に愛されなければ泡になって消えてしまうらしい。
消えるのは怖くない。でもこの想いを一度で良いから彼に伝えたい。
その日の夜、部屋に魔法使いが現れた。
「よう、調子はどうだ?」
彼は笑いながら問い掛けて来た。黙って首を振ると魔法使いはそうだろうなあ。と楽しそうに言う。
「本題に入るがお前はこのままだと泡になって消える。それが嫌ならこれで王子を殺せ」
そう言って魔法使いが渡したのは銀製のナイフだった。
「心臓を一突きすれば俺が掛けた呪いが解ける。そうすればお前は泡にならなくても済むぞ」
分からなかった。彼に人間になりたいと言った時、代償を払えと声を奪われた。
なのに今度は呪いを解く為に王子を殺せ?おちょくってるとしか思えない。
「お前の事だから面白がってるだけだと思ってるだろ?違うんだよなあ。人間なんかに恋したって所詮報われないって教えたかったんだよ。お前は声まで失ったのに彼奴は見向きもしない。惨めだな」
魔法使いの言葉一つ一つが胸の奥に突き刺さる。彼の言う事は何も間違っていなかった。
王子は王女を愛してる。それは紛れもない事実で。
魔法使いは僕を抱きしめながら囁く。
「あんな奴より、俺がお前を愛してやるよ。だからアイツの事は殺して忘れろ」
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