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「A。好きだよ、愛してる」
絶対思っていないであろうセリフを吐きながら兄さんは僕をベンチに押し倒した。
今回は誰を追い払いたいんだろう。この前はヤンデレストーカーだったけど。
ぼけっとしたまま兄さんを見つめていると、来た。と呟いた。
複数の足音が聞こえ、思ったより数が多いと感じて見ると雅紀が此方を凝視している。おまけに白雪達も居て僕は混乱した。
(兄さん、何考えてるの?)
兄を見上げれば変わらず楽しそうな表情を浮かべている。ツカツカと雅紀が歩み寄って来て兄さんを睨みつける。
「ソイツから離れろ。今すぐに」
敵愾心を隠そうともしない雅紀を見て兄さんは笑い声を上げる。
「前世の頃より性格キツくなったね、王子様?」
戯けたように言う兄さんの言葉が頭を掠める。
兄の蒼には前世が魔女だと伝えたが、何故兄さんが魔女であるかの様な態度を取るのか。
「同じ学校に魔女まで居るとはな。これも運命か」
「俺はそんな運命ごめんだけどね」
水姫の恋人の海斗君が苦々しげに言い、兄さんはまたも軽く返す。
ああ、なんとなく状況が読めて来た。これは兄さんが仕組んだ茶番劇だということも。
「雅紀、だっけ?Aは俺のモノにするから諦めてよ。それにお前には前世の恋人が居るんだから問題ないでしょ?」
チラリと雅紀を見ると悩んでいるのか眉を寄せている。困ってる。当たり前か。幼馴染みとはいえ特別な感情を持たない雅紀からすればいい迷惑だろうに。
止めようとして兄さんの腕に手を置くと真っ先に反応したのは雅紀だった。兄さんを押し退け僕を腕の中に囲い込む。
戸惑う心を置き去りにして彼を見上げると彼の目は愛おしいと言わんばかりの色を映していて。
「……白雪は確かに俺の恋人だった。でも今は違う」
兄を真っ直ぐに見つめる彼は僕を抱きしめる腕に力を込める。
「今の俺は幼馴染みのAが好きだ」
彼の告白を聴いて耳が熱くなる。兄さんはふーん。と気が削がれたような、興味がなくなった様な声を出す。
「あっそ。じゃあお幸せに〜」
あっさりとしかも軽い口調に全員が目を剥くのにも構わず立ち去ってしまう。雅紀にずっと抱きしめられているのが恥ずかしくて一旦離れる。
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