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「シエル、突然なんだ?」
ローレンス先生が彼女の名を呼ぶのを聞き更に苦しくなる。
彼は僕を他の人と同様に『神子様』と呼ぶ。その呼び方で彼が僕をどう思ってるのか解ってしまった。
「来週行われるパレードの警備でローレンス様と再度打ち合わせしたいと近衛団長が待っていますわ」
「そうか。神子様、聞いての通り私は行くが他に質問は?」
「大丈夫です」
答えるとローレンス先生はシエルさんと一緒に出て行く。
二人の姿が見えなくなってほっと息を吐いた。息苦しさが収まりつい笑ってしまう。
なんて不毛な恋なんだろう。ローレンス先生はシエルさんしか見えていないのに。
重い足取りで王宮の裏手にある湖まで歩く。
此処は主に辛い時に訪れる場所で、美しい景色を眺めて気持ちを落ち着かせる。
そうしないとこの気持ちが爆発してしまいそうで恐いから。
じっと湖面を眺めていると後ろで誰かの足音が聞こえた。
「……神官様?」
振り向けば召喚の時に会った神官様が居て、目が合うとバツが悪そうな顔をする。
「申し訳ありません。神子様の邪魔をしてしまいましたね」
「そんな事ありません。少し考え事をしていただけなので」
恭しく頭を下げて謝罪する神官様は小首を傾げ僕に近付く。
「考え事?ヴァルート殿のことですかな?」
言い当てられまじまじと神官様を見返す。彼は穏やかに微笑むのみ。何時から気付かれていたんだろう。
「……好きなんです」
正直に告白すると神官様は優しい笑顔を浮かべて。
「そうでしたか。神子様の想いが届くことを心より願っております」
そう言って神官様は別の用事があると去って行った。
再び一人になり、空を見上げた瞬間誰かに抱きつかれる。
びっくりしたけど濡れ羽色の髪を見て動揺が収まる。
「ローレンス先生……?」
「A、彼奴はやめておけ」
急に名前を呼ばれ息を呑む。てか、彼奴って?
「神官の顔立ちは確かに端正だが、所詮は神に仕える者。色恋は出来ない」
「……知ってますけど」
「知ってて想いを寄せているのか?そんな報われぬ恋なんか諦めて、私にしろ」
ローレンス先生、今のは告白ですか。と訊こうとしたら強く抱きしめられる。
「君が好きだ。私を選んでくれないか」
「……僕もずっとあなたが好きでした」
彼は弾かれた様に顔を上げ僕を覗き込む。
「本当か……?」
「ふふっ。はい」
笑いながら返事をするとキスの雨が降ってくる。
最愛の人が齎すキスに暫し身を委ねた。
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