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ズキズキと痛む心を無視して歩を進める私の背中に声が掛かる。後ろを見ると息を切らしたアラン様が真剣な眼差しを私に向けていた。
驚いて唖然としていると強い力で私の腕を掴む。
ヒッ、殴られる!?思わず身構えるとアラン様は眉を下げ悲しそうな顔をする。
「……そんなに俺が恐いか?」
絞り出された様な低い声が私の鼓膜を揺らす。
「最初に会った時から君は俺に怯えていた。笑顔すら見せてくれなかっただろう」
━━侯爵の息子には笑うくせに。と悔しそうに言うアラン様の瞳にははっきりと嫉妬の色が浮かんでいて。
まるで、彼が私を好きみたいじゃない。ヒロインじゃなく、悪役令嬢の私を好きになるなんて。
そんなシナリオは存在しないのに。けれどアラン様に抱きしめられているのは紛れもない現実だ。
「好きだ、ミシェル。どうか俺を受け入れて欲しい」
大好きな優しい声が耳元をくすぐり、思わず身じろぎする。
逃げられると思われたのか、アラン様は拘束を強めて私に口付けをした。
初キス……と感じる間もなくキスが続く。舌が口の中に入り込み優しく絡め取られる。
暫くするとアラン様の顔が離れ、視界が拓ける。
その時此処が外だと思い出してカッと身体中が沸騰した様に熱くなる。
咄嗟に地面の方に視線を向けると頬に白い手が置かれる。
「ミシェルは俺が好きか?」
不安そうな声音を聴いてこの人も私と同じ想いを持ってるんだと知った。
「好き、です……」
恥ずかしかったけど精一杯伝える。
好きだと告げるとアラン様は破顔しながら再度抱きしめられた。
「もっと言ってくれ。君の声が聞きたい」
私が気付いていないだけで、アラン様は私を愛してくれていた。
会う度に恐がられ、避けられてとても傷付いたと彼は言う。
「ごめんなさい」
自分の事ばっかりで。アラン様の気持ちなんて考えもしなかった。
「謝らなくていい。ミシェルの気持ちを知る事が出来て安心した。これからはずっと一緒に居よう」
私の大好きなヒーローは悪役令嬢を選んでくれた。
それだけで胸がいっぱいで。私達はもう一度お互いに唇を重ね、愛を囁いた。
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