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迷った挙句、挨拶して立ち去ろうと思った。
「陛下、ご機嫌麗しゅうございます。なにやら私の為に膝枕をなさって下さった様ですね。ありがとうございます」
「……いや。こんな所で無防備に寝ていたから、つい」
成る程。陛下にも人情というものは在ったらしい。口に出せば即刻不敬罪だろうけど。
「そうでしたか。ご迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。では私はこれで」
謝罪をして直ぐに立ち去ろうとした。が。
「っ。ちょっと待て」
呼び止められ陛下の方を見ると苦々しい表情で自分を見ている。
「お前は、俺のことをなんとも思っていないのか?」
……は?なんとも思っていないのは陛下の方でしょう。
けれど陛下は途方に暮れた様な顔をして立った自分を見つめている。
もしや陛下は変なものでも口にしたのか。普通なら考えられないが、陛下の様子は明らかに可笑しい。
もっと近くで様子を見ようとベンチに座り直すと彼はあからさまに安堵した。
ふむ。表情が分かり易い陛下なんて、ますます変だ。
私は陛下の一挙手一投足を見逃さない様目を光らせる。
「側室が男児を産んでもお前は何一つ関心を示さなかった。お前がこの結婚を乗り気じゃない事は解っていたが少しは俺を見て欲しかった」
……ん?なにやら話が明後日の方向に進んで行くのだけど。
戸惑う自分に構わず陛下は物理的に距離を詰めて来た。
「教えてくれ。どうしたらAは俺を見てくれる?」
わあ、始めて陛下に名前を呼んでもらったー。とか感傷に浸ってる場合じゃない。
なにこれ?陛下が私の手首を掴んで懇願している様に見えるんだけど。
だって、自分の知る陛下は無表情で冷たくて婚約者に興味を示さない。なら目の前で情熱的な視線を私に向けるこの人は誰だ。
姿形は陛下そっくりなのに中身は全く知らない男性。
思わず溜め息を吐くとビクリと陛下の肩が揺れる。
「今更、とは思うが俺はAを愛してる。初夜だって済ませたい」
流石に無視できない単語が陛下の口から飛び出した。
ああ、もう。お飾りの妻になろうと思ったのに。
「……今後、私を大切にして下さるのであれば陛下のお好きな様にして下さい」
そう言うと陛下は私を抱きしめ耳元で愛してる。と囁く。
それに返さなかった私を責める気はないのか代わりにと言わんばかりに口づけを交わす。
私は多分、こうなる日を望んでいたのだろう。陛下に愛してもらいたいと。
その夢が叶った瞬間を、私は確かに感じ取った。
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