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「だ、だって……ヘラは一度も俺に好きとも愛してるとも言わないじゃないか」
項垂れる彼を横目で見ながらそう言えば直接言った事は無かったなと思い出す。
言葉を匂わせたりはしたけどわざわざ言う必要はないと感じた。
だって、他の愛人にも愛を囁いてるこの神に対して言うのは凄く嫌だった。
だからなるべく直接的な言葉を避けていたら、彼はあらぬ方へ誤解したらしい。
「俺はタイプじゃないんだろう?だからヘラの好みに少しでも近づく様にしたのに……」
彼は僕のタイプに当てはまらない。それは事実だけど本人に言った事はない。
なら誰かが喋ったな。あとそろそろゼウスが涙目になって来てる。
普段は威厳さの塊みたいな姿を保ってるのに、何で僕の前じゃこんなに甘えたなんだろ。
まあ小さい頃はさすがに無碍に出来ずに可愛がったけど……
「もう好み云々の問題ではないのですよ」
表向きでは報復なり復讐なりしていたけど、ゼウスからすればそれは王妃としてのプライドの為。なんの感情もないと思っていたんだろう。
貴方が浮気を繰り返して、僕が何も思わなかったとでも?
やっと愛せると思ったのにあからさまにやられれば僕だって傷付く。
今だって貴方の言葉を半分くらいしか信用出来ない。
「……レイスの様な男なら良いのか」
僕がゼウスを見ると彼は悲壮感で満ち溢れていた。
嫌いとか言った事ないのに。
「俺がずっとあの姿でいれば、ヘラは俺を愛してくれるか?俺だけを見てくれるか?素のヘラで接してくれるか?」
矢継ぎ早に言われ顔を顰めたけど、ゼウスの不安は取り除いた方が良さそう。
今にも雷を放とうとしている。
「……ゼウス様の事を嫌いだなんて、私は言いましたでしょうか」
ピタリと彼は動きを止め、身じろぎ一つしない。
それを見て笑みが溢れた。
「わざわざ言葉で好きだのなんのと言わずとも、ゼウス様なら判りますよね?」
そう言ってゼウスに抱き付けば彼の鼓動が聞こえて来る。
あぁ、温かい。ずっとこれに焦がれてた。
「へ、ヘラ。じゃあ……」
「あ、浮気する人にはここまでです」
離れようとする前にゼウスの腕が背中に回っていた。
「もう少し、だけ」
弱々しいゼウスの声は小さい頃の彼の声にそっくりで。
だから甘やかしたくなっちゃうのかな、と考える。
「それ、破くなり燃やすなりして良いですよ。離婚する気はないですから」
そう言えばゼウスから歓喜と安堵の気持ちが伝わってくる。
世話のかかる愛しいお方だ。
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