女神に成り代わりました。 ページ11
彼の人はまた浮気をしている。これで何度目だろう。
幾人もの女性と交わり子を成す彼にいい加減嫌気が差す。
いくら神々の王だからと言って限度ってモノがある。
それに僕自身も疲れてしまった、最高位の女神で居ることに。
前世が人間だと他の神々が知ったら、笑われるだろうか。
僕には人間だった頃の記憶があって、何時のまにか女神・ヘラに成り代わっていた。
その事実を知った時、死んだ事や両親の事を思い浮かべる前に僕は『詰んだ』と感じた。
女神ヘラは嫉妬深い女性で、夫であるゼウスの愛人や子供に一切の容赦なしの報復をするので有名だ。
僕はそんな鬼嫁にはなりたくないし、ゼウスが僕の好みに当てはまらなかった。
だからゼウスに結婚を迫られた時、物凄く嫌だった。
けれどゼウスの正妻にならないと神話の話が変わってしまうんじゃないかと恐れ、渋々ゼウスと夫婦になった。
もちろん愛人の女神、人間、ニンフには報復し、子供には狂気も送ったり。
正直女神様がこんな事するのか？と疑うくらいエグい事をやった。
おかげで僕はオリュンポスで最恐の女神として畏怖されましたよ、ええ。
そんなある日、ヘラクレスの事に関してゼウスと大喧嘩し、宙吊りにされた。
これは神話通りだから良いんだけど、問題はこの後。
千切れぬ筈の鎖がなぜか千切れて僕は地上の地面に叩きつけられそうになった。
「イッテェ……」
誰かを下敷きにしたので無事でした。って言ってる場合じゃないっ！
「ご、ごめんなさい！」
手が不自由だけれど器用に彼の上から退き、安否を確認しようとして一瞬動きが止まる。
背中に生える黒い羽、頭から突き出すツノ……悪魔が居た。
「あ、悪魔！？」
何でこんなところに！？と驚く僕を気に留めず彼は自分の背中を摩る。
「なんなんだよ急に……あ？アンタ……」
僕に気付いた彼は驚いた様に目を見開き、此方を凝視している。
「女神ヘラ……」
向こうは僕を知っているらしかった。ふと彼は僕の手が縛られているのに気付くと拘束を解いてくれた。
本来彼がこの拘束を解けるのは可笑しいのに頭の中がパニックを起こしていた。
「あ、ありがとう……」
「いーよ、別に」
悪魔は人懐っこい笑顔を浮かべてそう言った。
これが僕と悪魔・レイスとの出会いだった。
「天界から落ちた？」
素っ頓狂な声を上げるレイスを前に僕は力なく頷く。
「ふぅん。ゼウスも意外に抜けてるんだな」
呟く彼は興味深そうに鎖を見つめていた。
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