どっちかっていうと ページ14
一般人から声優の電撃デビューで業界に名を轟かせた当時、当の本人は全く実感が無かったらしい。サロンを退職、そして事務所に所属して、シンデレラガールといわれながら目まぐるしい日々の最中。一通の脅迫文が届いた。
「『拓也から離れろ』『今すぐ声優を辞めろ』『お前の家を燃やしてやる』とか…ここでは言えないことも送られてきたよ。
でもさ」
そう言って靴を脱いでソファに乗るセト。
俺は何故かそのセトの表情に乗ってしまい、すかさずマイクを渡した。
「まず一般人てなんだよ!!!!こちとら21歳でトップスタイリストデビューだよ!業界紙にもじゃんじゃん掲載させていただきました!シンデレラガール??違いますね!努力して城を築いていたところを縁あって離れただけだから!!どっちかっていうと私は!!!!エルサ!!!!」
メディアの自分に対する扱い方に疑問を抱いていた。人が見ようとするのはヒット数目当てで煽っているメディアで、真剣に答えてるインタビュー記事は読まれない。江口さんと仲良しのシンデレラガールなんて見出しつけられたら、そりゃ自分を嫌がる人は出てくる。割り切るしかない。向き合うことより今は実力をつける方が大事だと思った。
自分を嫌う人はその人の問題であって、自分の問題ではない。
その言葉を教わったことで救われた。
彼女の顔は、なんだかヒーローに見えて。
「ま、江口さんが教えてくれたんだけどね!それに何年か後にはそういうメディアに物申せる立ち位置に絶対なってやるんで。シクヨロ。」
「ぶっははは!タフすぎ!流石!笑」
くしゃくしゃに頭を撫でる。そっか、そんなことあったんだ。
江口さん繋がりで割と初期から仲良くて、やってらんねぇ時に書いてた本音ノートを偶然見られてからお互い本性を出せるまでになったんだっけ。
俺のほうが声優も年齢も先輩だとしても、時折見せる人生観にはっとさせられる。
人生経験は、多分、セトの方が多い。知識は幅広いし、返しも早い。自頭の良さもあって声優業界でも稀に見る速さで着々とスキルを積んでいる。
「…俺も負けないようにしないとな。」
「え?」
「いや、なんでも」
手ぐしで髪を整えて、何?みたいな顔して。本当は聞こえてたんだろ。知ってるからな。
でも俺はパイセンだから、ここは大人な顔して振り回されてやろう。
因みに本音ノートは恥ずかしくなって燃やした。
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作者名:oguro.san | 作成日時:2019年10月21日 20時