29 ページ31
どう答えようか考えあぐねていると、小さな頭が再び俯いてしまう。
俺が口を開こうとしたのと同じタイミングで、先にAが口を開いた。
「………やっぱり…だめだよ」
「A？」
「耕作が……私なんかに優しくしたら、だめ」
どうしていつも、届かないんだろうか。
「………恋をしたら、だめだよ」
初恋は、叶わないという。
恋の味は、苦いのだという。
その通りだと、痛む胸が訴えている。
その関係を超えてはいけないのだと、彼女の目が、強く語りかけている。
「………俺は」
「だめ」
「……お前の」
「だめだってば」
「…っ、幸せを願うのも、だめか…？」
どうにかして俺の口を塞ごうと手をのばしていたAにそう言えば、はたと動きを止めて、その手を降ろす。
「……っとに…────ずるい」
「……お前の望みは」
知っている、この感情をなんと呼ぶのか。
知っている、お互い不器用だということを。
それでも────。
「……ぬくもりを、ください」
「…ならせめて、そばにいさせてくれ」
その痛みを、分け合うことはできなくても。
その痛みを、つらい感情を、ともに背負うことはできるから。
「ずるいよ、そんなの…！」
涙声ではあったが、彼女は泣いていなかった。
その弱さを、知っている。
この感情を言葉にしたら、この関係は終わってしまう。
近くて遠くて、それでいいのだと思う。
────蓋を、しよう。
彼女が幸せになれるのなら、それでいいではないか。
ああなのに。
決意がゆらぐのは、ぶつかるように倒れ込んできた彼女から香るフローラルと、わずかな薬品の香りのせいだろうか。
「………ごめん、苦しかった？」
どこが、という前に、心臓のあたりを小さな手が撫でる。
とくん、とそれが跳ね上がった。
「あ、びっくりしてる」
苦笑して、そっと離れる。
────やめてくれ、期待させるな。
「……こういう関係は、だめですか」
そう言ってまた、Aは泣き笑いの顔で、きゅっと目尻を細めた。
「
離れたくても離れられない、その関係は。
医者と患者。
親と子。
薬のそれに────似ている。
やさしい拘束が、お互いの心を繋いでいる。
その溝を、広げないように。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3746人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あやみん - 名取先生が、自分に、恋したなんて、最高です!!!!! (2019年8月19日 12時) (
レス) id: ac50c68a33 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 16話、朝日は登りつつではなく朝日は昇りつつ、ではないでしょうか？ (2019年2月10日 15時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 14話、以外にも耕作だった。ではなく、意外にも耕作だった。ではないですか？ (2019年2月2日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 13話冒頭、横峯さんではなく横峯ではないですか？意図されてでしたらすいません (2019年1月18日 22時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
rabbit - 32の下から9行目「手術中にに」となっています。間違っていたらごめんなさい。 (2018年10月6日 23時) (レス) id: fec1ec90ab (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ayanel
| 作成日時：2017年8月1日 0時
