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(名取)
「秋本二郎。
アルツハイマー型認知症原因物質抑制プロジェクトのパイオニア。
各国の製薬会社が協力を要請だって。
…凄いんだ、あの人」
「ふーん…」
ICUの上にある部屋のガラス窓から下を覗く。
意識を取り戻した彼が、ベットに移されていた。
興味無さそうに大福を頬張る横峯と、項垂れる灰谷。
そんな俺たちの耳に、鈴を転がしたような声が届いた。
「へぇ…そんな人が、ねぇ…」
「っこ、香坂先生!?」
点滴棒を転がしながらやって来た香坂先生は、ユニフォームの上に随分と大きめのパーカーを羽織っていた。
その袖をくるりと捲りながら、苦笑を浮かべる。
「ごめんね、帰ってきたとき二人ともびっくりしたでしょう」
「あ…いえ、無事でよかったです」
────って、んなことより!
「なんでここに…まだHCUにいてくださ」
自分よりも小柄な香坂先生に詰め寄りながら声を上げると、ぱっと唇に何かが押し当てられる。
え…。
思わず黙ってしまった俺に人の悪い笑みを浮かべて、そっとそれを離す。
「しー…」
人差し指から伝わった温かさと柔らかさに驚愕しているうちに、彼女は同じく呆けていた灰谷に、膝を折って声をかけた。
「大丈夫?
無理しなくていいからね。
…ごめんね、頼りない先輩で」
「っ!
頼りないなんて、そんなこと…、!」
ないです、と言おうと顔を上げた灰谷の言葉が止まる。
「────っ」
どうしたと思い、彼らの方に顔を向けた俺も、同じように息を止めた。
香坂先生は、灰谷に泣き笑いのような顔をして、違う場所を見ていた。
ICUの方へ視線を落とす彼女の視線の先には────秋本さんの奥さんと話す藍沢先生。
彼を見る瞳が、あまりにも、憂いと熱を孕んでいた。
その横顔に、その瞳に、吸い込まれそうになる。
「────…さて」
長い睫毛を伏せてから立ち上がった香坂先生は、次の瞬間にはいつもの顔に戻っていた。
「明日ぐらいには復帰できると思うから、それまでよろしくね。
何かあったら連絡して」
や、そんな身体で処置なんてしようものなら、藍沢先生が直々にHCUに連れ戻すと思うんですけど…。
そんな俺の心の言葉など届くはずもなく、香坂先生は腕時計を確認して、げっと呻いた。
「お手洗い行きますって抜け出してきたんだった…やばい緋山先生に怒られる…!」
ああ、変わらないな…。
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あやみん - 名取先生が、自分に、恋したなんて、最高です!!!!! (2019年8月19日 12時) (レス) id: ac50c68a33 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 16話、朝日は登りつつではなく朝日は昇りつつ、ではないでしょうか? (2019年2月10日 15時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 14話、以外にも耕作だった。ではなく、意外にも耕作だった。ではないですか? (2019年2月2日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 13話冒頭、横峯さんではなく横峯ではないですか?意図されてでしたらすいません (2019年1月18日 22時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
rabbit - 32の下から9行目「手術中にに」となっています。間違っていたらごめんなさい。 (2018年10月6日 23時) (レス) id: fec1ec90ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月1日 0時