-誰がカウントダウンなんて言うた?- ページ39
………え、切れ、た?
慌てて画面を見る。
そこにはまだ、通話中の文字。
「………白石」
藍沢先生に呼ばれて横を見る。
彼は、すっと手を自分の耳元に持っていった。
………あ。
「……も、もしもし?」
『────あ、白石?
あーびっくりした、突然呼ばれたのに、なんも聞こえへんねんもん、電波切れたかとおもたわ』
スマホを通してだけど、耳元で京くんの関西弁がはっきりと聞こえる。
仕事中に電話かけることぐらい普通だったのに、いまはこんなにも震えがとまらない。
────言わなきゃ、飛行機、間に合わなくなる。
「あ、あの、ご飯誘ってもらったのに、行けなくて、ほんとにごめんなさい…!」
怒られるのは覚悟してる。
今日のことだって、私のせいだ。
『え、お別れの挨拶が謝罪やなんて、んな辛気臭いことやめよーや、な?』
私の耳に、優しい声が届いた。
「でっ、でも!
ちゃんと謝りたかったの…」
『ほんま変わらへんなぁ、白石は』
それは、京くんだって同じでしょ。
『フェロー時代は受け身で、ずーっと香坂のあと着いてっとったんが、いまではスタッフリーダーやもんなぁ。
やー、成長成長』
「ちょ、やめてよそんな昔の話!」
恥ずかしくなって思わず叫ぶと、くっくっ、と喉の奥で押し殺したような笑い声が聞こえてくる。
『はは、すまんすまん。
これからもみんなを、よろしゅう頼んまっせ。
────……なぁ』
「…え……なに?」
『────────恵』
バリトンのほどよい低音が、隙間1センチの距離から────まるで囁かれるようにして呼ばれたのが自分の名前だとわかるまで、しばしの時間を要した。
「…………なっ、に………言って…」
『…ぷっ、はっははー!
いまごろ茹でダコみたいになっとんちゃう?
鏡見てきぃや』
「からかわないでよ!
もう…最後まで関西人…」
『そりゃあ、地元やからな。
………ほんなら名残惜しいけど、そろそろ行くわ』
あ、もうそんな時間なんだ…。
はやかった、なぁ。
もっと話してたかったな、なんて。
「いままで、ありがとう」
『おぅ。
────────あ、最後の最後にひとつだけ、ええ?』
うん、なに?と顔を上げた私は、医局の窓から黄金に輝く満月を見つけた。
雲が……晴れたんだ…!
『────────月、綺麗やな』
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彩架(プロフ) - 3話の「始め」ではなく「初め」ではないですか? (2018年10月13日 23時) (レス) id: d02e226a01 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 話に話を咲かせる、ではなく、話に花を咲かせる、ではありませんか? -14cm-です (2018年9月28日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - すいません、先程の書き込み、訂正させてください。「ステンド」ではなく、「ステント」ではありませんか? (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - -18cm-の京先生の考えてること、何個目かはわかりませんが…、「それは」の後の「、」が「,」になってます (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - -18cm-の京先生が一番最初に考えてること、ステントグラフトになっています。ステンド、ではないです? (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年7月27日 12時