-17cm- ページ28
あれから藍沢先生が処置していた脳卒中の患者も無事に終わって、俺はスタッフステーションで盛大に肩の荷を下ろした。
「あー…肩凝った…」
俺は昔から、細かい手術はどちらかと言えば苦手────というより、できればしたくない部類に入っている。
なんつーの、普通の外科手術より疲れるってか…気を張らねばならんちゅーか。
何度も経験しているし、失敗したことはないが、どうしても苦手意識が抜けずにいた。
「お疲れさま、京先生」
「うっわ!びっくりした…なんや、白石か…」
ばくばくする心臓をなだめつつ、俺は白石先生の手から缶コーヒーを受け取った。
「やめてよ、人の顔みて幽霊みた、みたいな顔するの」
「や、ちょっと考え事しとってな」
「え?」
縫合の手さばきをしながら、遠くを見て呟く。
「カテーテル使うときだけ、あいつの手と交換でけへんかなぁって、毎回考えるんよ」
オスロにいるだろう彼女を思い出しながら、缶コーヒーを開けて煽る。
「あー確かに、あの子手先器用だもんね。
初めて縫合見たとき、ビックリしちゃったもん」
「俺も俺も」
そう言ってお互い笑い合って、こういう時間ってやっぱええなぁと、しみじみ思う。
「そろそろ暑なってくるさかい、また熱中症で運ばれる人増えそうやな」
「軽度症状なら助かるんだけど、合併症とかくると困るのよね」
あ、そういえば、と思い出したようにこちらを向く。
「今年もみんなで楽しみにしてるね、例のあれ」
「あーはいはい。
もうすぐ送られてくると思うわ」
あれ、というのは京野菜の漬物である。
育ちは大阪やけど、実家は古都・京都で漬物屋を営んでるもんでね。
毎年、職場の皆さんで、とダンボールいっぱいの京野菜の漬物が自宅に送られてくるんですわ。
え、なんで継がんかったんかって?
安心せい、3つ上の兄貴がおる。
「京先生、何だかんだ言ってたまに自作のお弁当だもんね。
大阪育ちなのに」
「そこは料理できる男子素敵って言うてくれ。
なんなら食べにくるか?」
ほい、と糖分補給のチョコレートを差し出しながら気軽に誘ってみる。
それこそ、今日飲みに行こうや、ぐらいの感覚だ。
と、心外の看護師が俺を呼びに来た。
「ありがと。
…じゃあ現場が落ち着いたらお邪魔します」
「ん。
嫌いなもんあったらLINEしといてくれ」
じゃ、と手を振って、スタッフステーションを後にした。
残り、17cm。
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彩架(プロフ) - 3話の「始め」ではなく「初め」ではないですか? (2018年10月13日 23時) (レス) id: d02e226a01 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 話に話を咲かせる、ではなく、話に花を咲かせる、ではありませんか? -14cm-です (2018年9月28日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - すいません、先程の書き込み、訂正させてください。「ステンド」ではなく、「ステント」ではありませんか? (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - -18cm-の京先生の考えてること、何個目かはわかりませんが…、「それは」の後の「、」が「,」になってます (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - -18cm-の京先生が一番最初に考えてること、ステントグラフトになっています。ステンド、ではないです? (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年7月27日 12時