Epilogue -痛みの先にあるもの- ページ22
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(香坂)
たとえこの命を、天秤にかけるときが来たとしても。
私は両親の分まで、目の前の消えかけた命に
自分の命の
それが、医者の人生を選択した、私の両親にできる唯一の恩返しであり、親孝行であるから。
ねぇ神様、もしいるなら私のわがままを聞いて。
いつ心臓が止まるかわからない立場にいるんだから、せめて。
────せめてこのぬくもりに身を任せることを、許して。
その代わり、この気持ちには蓋をするから。
あたたかい雫が、頬を、押しつけられた胸板のシャツを濡らしていく。
ともに人生を歩めない命なら、相手を傷つけるだけだ。
────どんなに正しいことでも、言い方を間違えれば相手を傷つけるんだからね。
ああ、どうしよう、恵ちゃんの言うとおりだ。
涙が────涙があふれて、止まらない。
離れようと思うのに、このぬくもりにすがりついて甘えてしまう。
このとき私は、自分の心の奥底に芽生えた気持ちに、あえて気づかない振りをした。
気がつきたくなかった。
もうとっくに覚悟を決めていたのに────
「………耕作、はなして」
がっちりと回された腕の力が、もがけばもがくほど強くなる。
やめてよ、お願いだから。
────まだ生きていたいなんて、思わせないで。
そのきつい言い方や態度の裏にある優しさに、気づいてしまったのは、出会ってまもない頃。
その静けさをたたえた瞳が、ほかの仲間には向けない感情を浮かべていることに気づいてしまったのは、こちらに帰ってきて、抱きしめられたあの日。
痛みの向こうにあるのが────胸が焦がれるほどの愛情だということに、気がついてしまったのは、いま。
私には、もう足掻いても届かない思い。
私は彼の腕の中で、首元に輝くピンクゴールドのリングネックレスを、きつく握りしめた。
雲が晴れて、満月が顔を覗かせる。
先程まで飲んでいたミュート・ピュトニィの蜜色を溶かし混んだような色のそれだけが、私の気持ちを知っているかのように、淡く輝いていた────。
第2話 導く者 -Fin-
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彩架(プロフ) - 3話の「始め」ではなく「初め」ではないですか? (2018年10月13日 23時) (レス) id: d02e226a01 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 話に話を咲かせる、ではなく、話に花を咲かせる、ではありませんか? -14cm-です (2018年9月28日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - すいません、先程の書き込み、訂正させてください。「ステンド」ではなく、「ステント」ではありませんか? (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - -18cm-の京先生の考えてること、何個目かはわかりませんが…、「それは」の後の「、」が「,」になってます (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - -18cm-の京先生が一番最初に考えてること、ステントグラフトになっています。ステンド、ではないです? (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年7月27日 12時