17 ページ21
「3年の夏休みが明けて、他クラスに休み続けている女子がいることを聞いた。
………お前だ」
「っ…ぜんぶ、知ってた、の…?」
彼女の友達が、話しているのを聞いた。
それは、11年前の高速道路の事故。
.
────離れた場所に飛ばされた彼女がひとり、意識不明の女の子を心臓マッサージで救っていた間に、両親は息を引き取ったのだ、と。
髪と同じ、色素の薄い茶色の瞳が、玻璃水晶のようにひび割れて、一筋、涙が頬に流れ落ちた。
「A…」
その姿に耐えられなくなって、彼女の方へと手を伸ばす。
だがその細い身体は、バイクから降りると逃げるように俺から距離をとった。
「あ…、ごめ…」
それはAが自分の意思ではしたことではなく、ほぼ反射的に、無意識の行動だった。
「…そっか……あのとき、図書室で医学の本読んでたの、耕作だったんだ」
気づかなかったなぁ、私、人の顔と名前覚えるの苦手なんだよねと無理矢理笑う彼女は、これ以上聞くなと、俺との間に壁を作る。
────なぁ、どうしてそこまで背負い込む?
────やめて、もう聞かないで。
沈黙に耐えきれなくなって俯いたAは小さな、ほんとうに聞き取れるか聞き取れないかくらいの声で、告げた。
「私は……両親を見殺しにした。
私があのとき女の子じゃなくて、両親を探していれば、二人は助かったの」
それは、18歳の少女が初めて選択した、命の天秤。
どちらか一方しか救えないときに、目の前の命を優先した彼女の判断は正しい。
少なくとも、俺はそう思っている。
「────私ね、ロスに行って罵られてからずっと、思ってたことがあるの」
私は11年前のあの時から、医者になれる資格なんて、なかったんだなって。
「……だからせめて、両親のために最後まで“医者”でいさせてくれることを、許して?」
それは、ささやかな願い。
それは、つぐない。
あの日、帰ってきたときと何ら変わらない声音で言う彼女を、自分の服が涙で濡れるのもいとわずに、ただ黙って腕の中に閉じ込めた。
「……あったかい…」
「………言っただろ、無闇に男の前で泣くな」
────好きな女の涙は、綺麗すぎる。
その言葉を言う勇気は、いまの俺にはない。
3276人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
彩架(プロフ) - 3話の「始め」ではなく「初め」ではないですか? (2018年10月13日 23時) (レス) id: d02e226a01 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 話に話を咲かせる、ではなく、話に花を咲かせる、ではありませんか? -14cm-です (2018年9月28日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - すいません、先程の書き込み、訂正させてください。「ステンド」ではなく、「ステント」ではありませんか? (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - -18cm-の京先生の考えてること、何個目かはわかりませんが…、「それは」の後の「、」が「,」になってます (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - -18cm-の京先生が一番最初に考えてること、ステントグラフトになっています。ステンド、ではないです? (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ayanel | 作成日時:2017年7月27日 12時