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「君が病院に来る目的は点滴じゃなくて……、香坂と藍沢だもんな」
新海の言葉にようやくAを解放した少女────天野奏は、ふふっと微笑む。
「まぁね。
一番はやっぱりA先生だけど…、新海先生でもいいよ?」
「こーら、大人をからかわないの。
お母さん心配してるから、戻ろ?」
「はぁーい。
あ、ちょっと待って、飲み物買いたい、喉乾いちゃった。
A先生、一緒に行こ!」
「え、あっ、ちょ、耕作パス!」
緩やかな軌道を描いて俺の手に収まったミネラルウォーター、これを頼んだのは俺自身だったりする。
そのまま引っ張られていくAを若干哀れみを含む目で見送っていると、新海が声をかけてくる。
「いやぁ、うるさくてさぁ…香坂先生と藍沢先生はなんで救命に行ったの〜って」
ぽん、と肩に重みが乗る。
「……どうだった」
「ん?
……3.5センチだ。
あー、あともう一つ、お前に聞こうと思ってたんだが」
手が、確かに俺の右肩をつかんだ。
「香坂のやつ────何か持病でもあったのか?」
持病?
仮にもフェロー時代からの付き合いだが、そんなものを持っているとは聞いたことがない。
もちろん、上司であった黒田先生や森本先生からも。
「……いや…なぜだ?」
「ここに来る前にあいつ、循環器内科の先生に呼び止められてたんだよ」
戻ってきたときにでも聞くか、と決めたとき、軽い足音がひとつ。
「おまたせ!」
一緒に飲み物を買いに行ったはずのAの姿は、天野さんの隣にはなくて。
「あいつは?」
「A先生なら、女子会遅れちゃうと怒られるから〜って服着替えに行ったよ
残念?戻ってきたのは私だけで」
「………ハァ」
あの日、翔北に戻って涙を見せた日から。
どうにも避けられている気がするのは、気のせいなのだろうか。
いや、避けられているというのは語弊がある。
自分から近づいてこないのだ。
「もー!素直じゃないなぁ。
…そんなんじゃ、新海先生にとられちゃうかもね」
後半部分は耳元で俺だけに聞こえるように言われた言葉に、自然と心が重くなるのを感じた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
それは、いつも突然やって来る。
どくん、と心臓が震えたと思ったら、圧迫感を伴う締め付けるような痛みが胸元を駆け抜けて。
それは、まるで潮が引いていくように消えていく。
嵐のように過ぎ去る、自分のように。
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彩架(プロフ) - 3話の「始め」ではなく「初め」ではないですか? (2018年10月13日 23時) (レス) id: d02e226a01 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 話に話を咲かせる、ではなく、話に花を咲かせる、ではありませんか? -14cm-です (2018年9月28日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - すいません、先程の書き込み、訂正させてください。「ステンド」ではなく、「ステント」ではありませんか? (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - -18cm-の京先生の考えてること、何個目かはわかりませんが…、「それは」の後の「、」が「,」になってます (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - -18cm-の京先生が一番最初に考えてること、ステントグラフトになっています。ステンド、ではないです? (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年7月27日 12時