21 ページ23
その言葉に心臓がきゅっと閉まる感覚と、甘いのにどこか切ないような痛みに襲われて、その腕の中で震える。
「────どうして……？
どうして、記憶まで失くした人に、そんなこと言えるんですか…!?」
「A？」
違う、その名前は私に向けられているんじゃない。
ちがう、彼をこんな気持ちにさせるのは前の私。
私は、同じ姿をした────そう、ただのお人形なのに。
「そんな…、そんなこと言われたら……っ、あたま、おかしくなる…っ！」
「────なればいい、と言ったら…怒るか」
「なに、言って…！」
分かんないよ、どうしてそこまで優しくするのか。
思い出したいよ、私達の関係を。
この声は、誰にも届かずに消えてゆく。
泡になって、はかなく散ってゆく。
────命の、ようだ。
頬に、あたたかい手が添えられる。
「どんなに俺を忘れていても、お前はお前だ。
触れないようにと思っていても、駄目だった。
────お前じゃなきゃ、駄目だった」
「……プロポーズみたいなこと言わないでください」
嬉しいのに、喜べない。
この記憶にかかる靄が邪魔をして、私の視界を涙で霞ませる。
「────A」
その声で、名前を呼ばないで。
「そんな状態のお前を新海に預けておくのは、正直言って癪だ。
どうせ遠距離になるなら、
……もう、これ以上手離したくない」
昼間、耳元に落とされた囁きが、私の中に蘇る。
────お前の手術が済んだら、伝えたかったことがある。
「………そばに、いろ」
あのときと同じ言葉をもう1度口にして、藍沢先生は私を見つめている。
いついかなるときも冷静なあの瞳が、ただ私の薄茶の瞳を見ている。
「…返事は、急がなくていい」
それは、つまり。
するりとほどけていく腕をつかむ勇気は、なかった。
ただ触れられていた箇所がやたらと熱を持っていることに、ひどく動揺する自分がいた。
────記憶を失う前の私は。
彼のことを、愛していたのだろうか────。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(藍沢)
歩きながら、拳をきつく握りしめる。
勢いで口に出した言葉は、もうほとんどプロポーズのようなものだった。
────馬鹿か…余計に苦しめてどうする。
だが、それほどに余裕がなかったのも事実で。
お互いの距離が、つかめない。
月は、ただ見守るように淡く光り輝いていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4404人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リラン(プロフ) - いつも更新楽しみにしてます！読むたびに次をもとめてしまう！今後も期待してます！話は変わりますが、少年陰陽師読んだことありますか？何となく文が似ている所があってずっと気になっていたんです。急に質問すみません。もし知らないのであれば申し訳ないのですが… (2019年2月12日 12時) (
レス) id: c050d878db (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 18、大大抵ではなく、大抵では？ (2018年7月4日 20時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
鈴子 - コードブルー好きにはたまらないね\^-^/ (2017年10月14日 21時) (レス) id: bbbfeb8862 (このIDを非表示/違反報告)
咲(プロフ) - いつも更新楽しみにしています！更新される度に続きが気になって気になって！最終回、楽しみにしています！更新頑張ってください！ (2017年9月19日 23時) (レス) id: e98d2ab7a8 (このIDを非表示/違反報告)
藍沢せんせすき - 面白すぎます笑楽しみにしてるので更新頑張ってください^ ^ (2017年9月19日 22時) (レス) id: 0944e50e01 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ayanel
| 作成日時：2017年9月12日 0時
