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(香坂)
痛みと緊張で思ったより疲れていたのか、いつの間にか眠ってしまった私が目を覚ましたのは、誰かのあたたかい手が頬に触れたときだった。
重い瞼をゆるゆると押し上げる。
「────気がついたか、香坂」
そこにいたのは、朝ぶりに見る橘先生だった。
「せん、せ……私…」
「いやぁ、重症の男の子をヘリで運んだ藍沢が慌ただしく来て、香坂をお願いしますって言うもんだから、何事かと思ったら白車でお前が運ばれてくるもんだから…さすがに肝が冷えた」
生きて、いる。
あの子も、耕作が救ってくれたのか。
凝り固まっていた全身の筋肉が、弛緩していくような感覚があった。
長い息を吐き出して、点滴の管がちょっと多めに繋がれた腕を目の上にあてる。
そこには真新しい包帯が巻かれていた。
「前頭部の傷は三井が綺麗に縫合してくれたから安心していいぞ。
背中の打撲は完治に2週間ほどかかるが、激しい負荷をかけなければ仕事に問題はないだろう」
「わかりました。
…すみません、帰って早々ご迷惑かけて」
「いやいや、
「姫て…もう三十手前ですよ、わたし」
小さく笑うと、橘先生の手が頭を撫でてくれる。
あたたかくて大きな、父親の手だ。
とそこに、些か先程見たよりも疲れた顔をして耕作が戻ってきた。
どこかほっとしたような、現場とは違う表情を浮かべて、そっと私の頬にその手が触れる。
命を、救ってくれた手だ。
「あの子は…?」
「肋骨が折れて、肺に出血していた。
あとは脳ヘルニアで…頭蓋骨に血塊が見られて、手術で取り除いた。
今はICUにいる」
「そっか…。
降りてもいい?」
どこに、とは言わない。
私の顔を見て、耕作は橘先生と呆れたように顔を見合わせ、それから苦笑した。
「待っていろ、車椅子を持ってくる」
「ありがとうございます」
ひらひらと手を振って出ていく橘先生の背中に、私は感謝を込めてお辞儀をした。
「なんか、帰ってきてから助けられてばっかりだなぁ。
涙腺もろくなりそう」
「……白石からお前の説明がなかったら、現場でお前が動かなくなったとき、冷静に対応出来なかった」
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恵李 - こんにちは。恵李です。1年前からほとんど毎日見てます!続編よろしくお願いします!あの〜質問questionなんですけど、何歳ですか?私は華のJK16歳ですけど教えてください!! (2022年10月19日 22時) (レス) @page10 id: 18a46fedc8 (このIDを非表示/違反報告)
マナ - ayanelさん» こんにちは… (2021年9月10日 11時) (レス) id: 9a04ef101c (このIDを非表示/違反報告)
レー - 質問というか聞いていいですか? (2021年3月8日 22時) (レス) id: 88b0f39677 (このIDを非表示/違反報告)
フラ - 作品を参考にしてよろしいですか?? (2020年9月11日 22時) (レス) id: ead1db5ef4 (このIDを非表示/違反報告)
あゆか(プロフ) - とても作品内容は面白く読ませて頂きました。一言申し上げるとセリフの前に名前を書いていただけると誰のセリフだか分かりやすくてもっと良い作品になると思います。素敵な小説ありがとうございました。 (2019年12月31日 0時) (レス) id: 8f8d498a5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年7月25日 21時