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(香坂)
みんな、手を離せないぎりぎりの状態。
私はおもむろに手袋を外すと、パンツのポケットから病院で至急される方のスマホを取り出した。
時刻は18:15
普通なら17時上がりで帰っている医者も少なくないだろう。
一縷の
────お願い…まだいて……。
数コール後、よく耳に馴染んだ声が鼓膜を震わせた。
『────脳外科医局です』
「っ………、藍沢先生…」
『A?』
その声に、無性に、情けなく、泣きそうになる。
刹那、苦いものが喉の奥からせり上がる感覚があって、私は思わず咳き込んだ。
「ごほっ…!っ、ごほ…っはぁ…!」
「A、無理しないで!貸して…」
恵ちゃんにスマホをパスして、なんとか咳を抑えようと試みる。
ただその一言で、じんわりと心があたたかくなったのは何故だろう。
彼なら必ず来てくれると、確信があったからだろうか────。
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(白石)
咳き込んでしまったAの背中をさすりながら、私は藍沢先生との通話を続けていた。
『白石か、Aに何かあったのか?』
「前頭部裂傷、傷はそこまで深くないけど血管が密集してるところだから出血がひど…」
「っう…!」
突如、背中をさすっていた私の手から、逃げるようにAが身をよじった。
『どうした?』
不審に思って、スマホをスピーカーにして膝の上に置き、黒いシャツを捲り上げる。
白い背中は、背骨を中心に腫れて赤紫に変色していた────打撲だ、それもかなり酷い。
「背部打撲してる…かなり時間が経ってるのに腫れが引いてない…」
『骨折していたら厄介だ、動かすな』
「わかった…。
あと頭部外傷で意識不明の少年がいるの。
7、8歳、壁に挟まれてまだ動かせない。
救出まであと30分かか────」
『もういい、わかった。
────現場に向かう』
それきり切れた通話。
「A、藍沢先生来てくれるから、もう大丈夫だよ」
ゆるりと瞼が押し上げられて、何度目かの泣き笑いのような顔で、彼女は嬉しそうに頷いた…。
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恵李 - こんにちは。恵李です。1年前からほとんど毎日見てます!続編よろしくお願いします!あの〜質問questionなんですけど、何歳ですか?私は華のJK16歳ですけど教えてください!! (2022年10月19日 22時) (レス) @page10 id: 18a46fedc8 (このIDを非表示/違反報告)
マナ - ayanelさん» こんにちは… (2021年9月10日 11時) (レス) id: 9a04ef101c (このIDを非表示/違反報告)
レー - 質問というか聞いていいですか? (2021年3月8日 22時) (レス) id: 88b0f39677 (このIDを非表示/違反報告)
フラ - 作品を参考にしてよろしいですか?? (2020年9月11日 22時) (レス) id: ead1db5ef4 (このIDを非表示/違反報告)
あゆか(プロフ) - とても作品内容は面白く読ませて頂きました。一言申し上げるとセリフの前に名前を書いていただけると誰のセリフだか分かりやすくてもっと良い作品になると思います。素敵な小説ありがとうございました。 (2019年12月31日 0時) (レス) id: 8f8d498a5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年7月25日 21時