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「…どうした」
「へへ、藍沢先生、新海先生、安心してください。
私、トロント大の推薦から外れました」
「……は?」
俺と新海、二人の声が重なった。
いま、何と言った?
“推薦から外れた”?
「あ、別にミスしたからとかじゃなくて。
私から西条先生に頼んだんです。
推薦はいいので、私を救命に戻してくださいって。
それに脳外には、将来有望な腕の医師が二人もいるんです、心配することなんてありませんから」
そう言ってにっこりと微笑む。
心の底から満足している笑顔だった。
「……A、ちょっと来い」
無意識に名前で呼んでしまうほど、そのときは気が動転していたのかもしれない。
仕事中はあくまでも先生だから、というお互いの暗黙のルールだった。
幸いカルテはもう書き上がっていた(これも恐らくこいつ)ので、問答無用でその腕をつかむ。
外に出てすぐ、俺は彼女を問い詰めた。
「どういうことだ」
「最初から可笑しいと思ったんだよね、オールマイティーな医師を脳外に配属だなんて、まるで救命に私を入れたくないみたいで…なんかむかついた」
救命こそ、オールマイティーな能力とそれに対応できる順応さが必要な部署だ。
「だから西条先生に詰め寄って、どういうことか説明してもらったんだ。
そしたら上────特に黒田先生に絶大な期待を置いていた人からのあてつけだって。
さっき理事のとこ行って、これ以上余計なことしたら医者やめてやるって言ってきた」
ノンブレスで説明したAは、大層ご立腹な様子で腕を組んだ。
秀麗な柳眉がむっと寄せられる。
「お前な……」
「藍沢先生が…耕作が成長してるの、すっごく分かった。
でも、7年で成長したことなら、私だってあるよ」
ふんっと腰に手を当てて、自身に満ち足りた目で見上げてくる。
その瞳に、吸い込まれそうになった。
「諦めてたらそこから進めない。
自分からアクションあるのみってね。
上への肝なら1番座ってると思うから、文句係なら任しといて」
そう言ってにっと笑う彼女に、何度救われて、何度この身体は向こうでハードな体験をしてきたのだろう。
「だからトロント大の推薦、駄目だったら許さないからね」
せっかく私が抜けたんだもん、選ばれてもらわなきゃ困るわーと言いながら、ブースの方へ戻っていく。
その背は、小さくて、それでいて、頼れるものだ。
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恵李 - こんにちは。恵李です。1年前からほとんど毎日見てます!続編よろしくお願いします!あの〜質問questionなんですけど、何歳ですか?私は華のJK16歳ですけど教えてください!! (2022年10月19日 22時) (レス) @page10 id: 18a46fedc8 (このIDを非表示/違反報告)
マナ - ayanelさん» こんにちは… (2021年9月10日 11時) (レス) id: 9a04ef101c (このIDを非表示/違反報告)
レー - 質問というか聞いていいですか? (2021年3月8日 22時) (レス) id: 88b0f39677 (このIDを非表示/違反報告)
フラ - 作品を参考にしてよろしいですか?? (2020年9月11日 22時) (レス) id: ead1db5ef4 (このIDを非表示/違反報告)
あゆか(プロフ) - とても作品内容は面白く読ませて頂きました。一言申し上げるとセリフの前に名前を書いていただけると誰のセリフだか分かりやすくてもっと良い作品になると思います。素敵な小説ありがとうございました。 (2019年12月31日 0時) (レス) id: 8f8d498a5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年7月25日 21時