コード・ブルー -Blue steelyard-

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(香坂)

自分の性格は自分がよく理解しているはずだ。



なのに、あの人にはそれを難なく引き出されてしまう。



自分が、心がいま欲しいと願う言葉をくれる。



「……かなわないなぁ」



敵わない────技術も、時折こうして見せてくれる、ぶっきらぼうな優しさも。



何年経っても越えられないどころか、むしろ甘えてしまっている。



半分はそれを克服するつもりで向こうに旅立ったのに。



────あのままここにいたら、彼の、みんなの優しさに甘えて、強くなれなかっただろうから。



ぱしゃっ。



もう一度冷水で顔を洗って、ばっと目の前の鏡を見据える。うん、大丈夫。いつもの顔だ。



照明に照らされて首元で輝く、AHKAHのネックレス。



細いリングはピンクゴールド、太いリングはシルバーの、ダブルリングのそれは。



7年前に耕作からお守りがわりに貰った、私の宝物のひとつだ。



────7年で成長したのは、技術だけじゃないってことかな。



それに指先で触れて、ふーっと肺の中の空気が空になるまで出し切って、冷たい空気を取り込むようにして、深呼吸をひとつ。



鏡の中の自分は、情けないくらい頬が赤い。



軽いスキンシップなら、向こうで慣れっこだったのに。



むしろテンションが上がると、こっちでもハグとか、頬にキスとか、普通でやりそうだから自分が恐ろしい。



高校時代の自分が見たら、絶叫して卒倒するだろう。



コーラルピンクに色づく唇に指先をやって、ぐるぐると回る頭を悩ませる。



「……………出よう」



ここにいたって埒が明かないし、救命のお姫様方のご機嫌が悪くなってしまわれる。



洗面台についた左手、その手首に嵌められた腕時計は、既に18時を回っていた。



脳外科の近くのトイレからそっと出ると、偶然、本当に偶然、向こうから見知った人物が歩いてくるのが、ばっちり目に入った。



ちょっとまって。いま絶対顔赤い。



どんどん歩幅が小さくなる私を気にせずに、耕作はずんずんこちらに近づいて、すれ違いざま、私の腕を捉えた。



「ところ構わず人前で──特に男の前で泣くなよ」



男に女の涙なんて、綺麗すぎるから。



「特に……────の、涙はな」

「…？

ごめん、よく聞こえなかった、もう一回いって？」

「…聞こえなくていい、忘れろ」



そのまま脳外科のブースに消えていく背を、ただ見つめていた。



触れられた腕が、熱を帯びていた。

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