コード・ブルー -Blue steelyard-

5 ページ14

それは、この思いとて。



「…────A」

「んー？なに…」



華奢な肩を、後ろから引き寄せる。



やわらかな、まだほんのり湿っている髪から、ブースに備えつけのシャワールームのシャンプーの香りがして、互いを包む。



「勤務中ですよ、藍沢先生」



ぽんぽん、と前に回っている腕を叩かれる。



Aが着ているブラウスから、顔を近づけないと分からないくらい、ほのかにフローラルの香りがした。



くい、と力を入れて身体を寄せる。



腕の中の身体が、かすかに震えたのがわかった。



「耕作？

…なんかあった？」



────お前が言うか、それ。



「………ああ」



Aが自己紹介してから、新海の彼女を見る目つきが変わったこと。



こいつはそれに気づいていない。



香坂Aの名が、医療界にじわじわと知れ渡ってきていることに。



フェロー卒業後、異例の海外研修抜擢。



それを問題なくこなした、期待の星。



もうひとつ、あとは自分の感情だ。



フェロー時代、俺の方が経験はあっても、決して誰も先輩なんて呼ばなかった。



あの時はどちらかと言うと仕事の時は一匹狼の風格を漂わせていて、今日帰ってきた彼女を見て何事かと思ったくらいだ。



もしや、と思った。



「向こうで何かあったのか」

「……んーん。

なんにも、ないよ」



────じゃあ何で、そんな泣きそうな声を出す。

6→←4

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す