くっついて離れて再び ページ44
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拳くんの後ろには父親の姿も見えた。だけど、そんなことはお構い無しに、私は真っ先に拳くんの元へ駆け寄った。走ってそのまま抱きつきに行くと、少し後ろによろめくものの拳くんは私をしっかり抱き止めてくれた。
「拳くん…っ、拳くん…!ごめ、んね…!約束、思い出したの…!あの日のことも、今まで忘れていたもの…全部…!」
「え……全部?」
「酷いこと言ってごめんね…!ずっと忘れててごめんね…!そばに居るって約束したのに…突き放して、拒絶して…ごめんなさいっ」
まるで、子供のように。拳くんの胸でわんわんと泣いた。大人になってから、こんなに泣いたのは初めてかもしれない。
だけど、子供のように泣いていたのは私だけじゃなくて。急に、拳くんに強く抱き締められると私の耳元で拳くんの震えた声と鼻をすする音が聞こえた。
「こうやって…抱き締めても…怖くない?」
「怖くないよ」
「Aちゃんの横に立って、一緒に歩いても…大丈夫?」
「うん、私も拳くんと一緒に歩いていきたい」
拳くんの胸にあった手をゆっくり拳くんの背中に回して抱き締めると先程より更に、拳くんの鼓動が直接脳に響き渡るようだった。
「A、拳くん…」
母親に名を呼ばれ、拳くんから離れ母親の方へ体を向けると、母親も目から涙が溢れているようだった。肩も少し震えている。そんな母親の姿を見た父親がゆっくり母親の元へと歩み寄って、肩を抱きしめる。
「私、Aに謝らないといけない…拳くんの事を、ずっと…黙っていてごめんなさい…」
「お母さん…」
「あんなにも拳くんの事が大好きだったのに、お母さん…あなたの苦しむ姿を見るのも、辛くて…」
止まらない涙がさらに拍車をかけて母親の目からは涙が溢れだしてくる。私も止まりかけていた涙が再び目から溢れてきてしまった。
「僕が頼んだことですから…Aさんのお母さんは悪くありません。もちろん、Aちゃんもね」
「それでも…ごめんなさい。謝っても謝りきれないけど、今のあなた達の姿が見られて、良かったわ」
父親に支えられながら母親は立ち上がり、引き出しの中から1枚の写真としわくちゃになった手紙を私たちに差し出した。
「あなた達やっと一緒になれたのね」
写真には、幼稚園の頃の拳くんと私。笑顔で抱き合いながらこちらを向いている姿が写っていた。添えられた手紙には、大きくなったらけんくんのおよめさんになる!と書かれていた。
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年7月29日 19時