突然降り注ぐ風のように ページ4
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「ねぇ、Aちゃん?」
「んー?」
「QuizKnockって知ってる?」
「QuizKnockぅ?」
祥彰が東大王でそれなりに活躍したあの日から2ヶ月経ったある日。次の講義の教室移動の最中で、ふと祥彰に話しかけられ彼の方へと顔を向けるも、当の本人は目の前をただ見据えスタスタ歩いていってしまう。
「僕、そこのプロデューサーさんにうちに来ないかって誘われたんだ」
「へー!良かったじゃん」
はて、プロデューサー?何かを制作してるのかな?あまり普段聞き馴染みの無い単語ばかりで謎だらけ。
「Aちゃん、クイズ仕事にしたいって言ってたじゃん?Aちゃんもどうかなーって思ったんだけど…」
「だけど?」
どことなく歯切れの悪い会話に、やっと祥彰がこちらに目を移してくれた。どこか、不安げのようなその目に少し吸い込まれそう。
「…そこ、男の人ばかりなんだよね」
「あー…クイズ業界が基本男の人ばかりだもんね」
祥彰の不安そうな表情の理由が、分かった気がした。私にとってあまり好ましくない状況だ。
「活動内容とかは凄くAちゃんが探してたものにピッタリだと思うんだけどね…」
彼が、私の状況を考え悩んでくれていることに、心から感謝した。私をここまで普通の人間にしてくれたのは他でもない、祥彰かもしれないと思える程私は彼に救われたのだ。
「んー、そのQuizKnockってのがどんな事してるのか自分の目で確かめてからどうするか考えるよ」
「でも…、大丈夫なの?僕も詳しく知らないけど、多分女の人ほとんどいないよ?」
もしかしたら、居ないかもしれない。……その時は、折角提案してくれたけど断るかもしれない。だけど、私は向こうから来てくれと誘われた訳では無いし。祥彰の背中を精一杯押すだけだ。
「大丈夫だよ。これでも祥彰とずっと一緒に居られたんだし、学部で嫌ってほど男とは絡んできたから」
「…なんか、僕から話持ちかけておいてなんだけど…無茶はしないでね」
ほんっとうに、祥彰はよく出来た人間だ。彼の両親に感謝したいくらい。こんな、ただの先輩で女の私をここまで心配してくれるなんて。
「ほんと、祥彰は可愛い弟だなぁ。そんなに姉ちゃんが心配か」
「わわっ!ちょっと、Aちゃん」
本当に祥彰が弟だったらなぁ。何度思ったことか。残念ながら、ここは恋仲にはならないのだ。残念かどうかは、分からないが。
僅かに私より背が低い彼の頭を撫でてやると、子供扱いするな!と怒ってすたこら先に歩いていってしまった。
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年7月29日 19時