忘れることの出来ない傷痕 ページ30
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「Aが高校3年生の秋。塾帰りで事件にあったって話は過去にしたわよね…?」
「うん、そこら辺は昔お母さんから聞いたよ」
「事件にあった当日…Aを見つけたのは、お母さんって言ったかしら…」
「…そう聞いてるけど…?」
「あの時……Aを見つけてくれたのは…拳くんなの」
「え……?」
拳くんが、私を見つけた…?そもそも、拳くんは私が事件にあっていることを、知っているの…?
「引っ越してからもうちの家族と拳くんの家族は交流があったのよ、小中高は違ったけどあなた達はいつも一緒に勉強して、お互い切磋琢磨してた」
「だから、あんなにも夢に出てくるのね……」
あの夢は、偽りの作られたものじゃなかった。きちんと、現実にあったことなんだ。……いい夢ばかりではないけれど……
「Aが東京の大学へ行くって聞いた時は、お父さんと随分悩んだけど、拳くんを追いかけるんだなって分かってたから反対はしなかったわ」
「お母さん……」
「きちんと面を向かって話したことは無いけれど、あなたが拳くんのことを大好きだってことは、お母さん分かってたわ」
「そして、きっと拳くんもあなたのことを随分大切に思ってくれているのも、分かっていたわ。なのに……っ」
その時、母の瞳から涙がぽたり。とこぼれ落ちる。みるみる涙は溢れ、終いには手で顔を覆う。
「……っ、あなたが事件にあって病院で運ばれて…、拳くんを覚えていないって、怖いって泣き叫んだ時は、酷く拳くんはショックを受けていたわ……っ」
「………っ」
…そうだ。私は、母親の話を聞いていても、幼稚園以降の拳くんの記憶が無い。正確には、思い出せないと言った方が良いのかもしれないが…
私はあの頃の自分の気持ちが分からない。だけど、母が拳くんを思って流す涙を見ていれば、当時私が拳くんをどんな風に思っていたか……
そして、拳くんがいかに私を大切に思ってくれていたかはひしひしと感じ取れていた。
「AからQuizKnockに入るって聞いた時、動画を見てすぐに気づいたわ。ふくらPって子が拳くんだってことは……」
「……知ってたのに、お母さんは私がQuizKnockに入る事を…反対しなかったんだね」
母は、優しい人だけど間違っていたり道を踏み外そうとした時は容赦無く指摘をする。親の愛情だと分かっていても、反対ばかりで正直うんざり思うことがあったのも、事実だ。
「だって、QuizKnockの話をするAが輝いてたんですもの」
だから、ここまでまっすぐ応援してくれている母を見るのも当時は不思議だったのだ。
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年7月29日 19時