もう元には戻れないよ ページ29
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暗い…空気が重い……
体が思うように動かせない……
いつもの夢とは違って、暗くて寒くて、怖かった。どんな夢を見るのか…怖くて怖くてたまらなかった。
───…やだっ!離して……!
───痛い…!怖いよ……!
───誰か…拳くん……助けて…
この夢は……っ
後ろ姿と声しか分からないけど、夢に出てきて助けを求めているのは…私だった。
なんて、酷い…なんて、惨い……
夢なのに吐き気と頭痛に襲われているような感覚になる。
───嫌だ……いや…いや!!!
目を瞑ればいいのに、瞑ることが出来なくてただひたすら、叫ぶわたしの姿をじーっと見つめていた。
「……ん、くん…」
「A……?」
「けん、くん……拳、くん…」
「しっかりしなさい、お母さんよ」
「おか…さん?」
気付けば、再び病室のベッドで横になっている私。脇に立っていたのは徳島にいるはずの母親の姿が。
「お母さん…どうしてここに?」
「Aが倒れたって電話があって飛んできたのよ」
「ただの、熱中症なのに?」
「……ただの熱中症じゃないでしょう?」
「え……?」
ひどく心配そうな顔をする母親に、私は今の自分の状況を一生懸命整理した。
あれ、確か…彩加が居て……その後…拳くんたちが来てくれたんだっけ……
「そうだ……拳くん!」
「拳…くんって、福良さんとこの?」
「そうだよ…!お母さん、拳くんは幼稚園の頃引っ越したんじゃないの?」
「そ、そうだよ。あなたが年長の頃に香川に家族で引っ越してったよ…」
引っ越してるのは…どうやら事実のよう。じゃあ引っ越した後…本当は…
「お母さん…引っ越した後、私と拳くんは会ってないって言ってたけど……本当は会ってたんじゃないの…?」
「っ…どうして…?」
「夢に……出てくるの…高校生くらいの拳くんが……」
……母親の表情を見るあたり、どうやら私の夢は私が作り上げたお話しではなく、本当に現実であったことのようだった。
「どうして…!なんで、幼稚園以降会ってないなんて…嘘を…」
「……仕方なかったのよ…」
「……あの、事件が関係してるの…?」
はっきりとは、思い出せない。断片的に、夢で見ただけしか…あるのは恐怖のみ。何が私をそんなに怖がらせているのか、拳くんを遠ざけてしまっているのか。
「Aが知りたければ、話すよ」
世の中知らなくていい事の方が多いのに、なんで聞いちゃったんだろう。
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年7月29日 19時