恋愛にも似た感情 ページ26
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「……俺は、Aちゃんに会えて良かったって思ってるよ」
「…え？」
私の不安が伝染してしまったのか、少し不安そうな表情の拳くんが私を見てそう言った。会えて良かった…なんて、まるでこれから別れが待っているみたいで。素直に喜んで良いのか分からない。
「……ずっと、…会いたいって思ってたから」
「え…どういう事？」
「…伊沢から話を聞いて、どんな子なのかなぁ。会って、話を聞いてみたいなって思ってたんだ」
「そう、だったんだ…」
伊沢さんが、拳くんにどんな話をしてくれたのか分からないけれど。ちょっとだけ、伊沢さんナイス！って思ってしまった。
会いたかった。ただそれだけなのに、自分がここにいていいって認められたみたいで嬉しくなった。そんな私の嬉しさが再び拳くんに伝染したのか、今度は嬉しそうに笑う拳くん。
「……もしかして、私表情で感情わかり易すぎ？」
「あ、やっと気付いた？さっきはすごく悲しそうだったけど、今はとっても嬉しそうだから良かったって思ってた〜」
間延びする拳くんの話し方が、この部屋の平常を戻しつつある。感情ダダ漏れなのは恥ずかしいけど、全部気づかれた訳ではあるまい。一生懸命、平常心を保とうとしていることは、拳くんにはバレていないはず…
「あれ？何だか顔赤くない？この部屋暑い？」
「え…？！と…うーん、暑い…かな？た、多分…」
全然バレてた。なんで顔が赤くなってるのか分からなくもないけど、今は暑いってことにしておきたい。梅雨も明けて、夏本番がそろそろやってくる季節なのだから。
「あ、何か飲み物買ってこよっか？拳くん何がいい？」
「冷蔵庫に入ってない？」
「さっき見たけど、何も無かったよ！」
「じゃあ、炭酸で」
「分かった！じゃあ、ちょっと行ってくるね！」
まるでその場から逃げ出すように、部屋を後にしようとしたその時───
後ろから手を引かれて、思わず振り返った。もちろん拳くんに引かれて。
「…やっぱり、俺も行くよ。すぐに準備するから待ってて」
「え…いいよ！1人でちゃちゃっと行ってくるよ！」
「だめだめ、女の子1人で行かせらんないよ。暑さで途中で倒れられても困るし」
夜遅くでも無いのに、私を1人の女の子として見てくれて、気を使ってくれる拳くんに。
私は、自分の気持ちに気付かない訳がなかった。
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作者名：りんご | 作者ホームページ：
作成日時：2020年7月29日 19時
