君と踊るワルツ ページ23
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「お、Aちゃん。おっそよ〜!」
「うぅ…ごめんなさい」
私がこれでもかと落ち込んでいるのに更なる追い討ちをかける彩加。今日は何も言えない…ただ謝りまくるしかないのだ。
「ごめんごめん!そんな落ち込まないで!事故に巻き込まれてなくて本当に良かったよ!」
「夢という罠にハマっておりました…」
確かに着信履歴やメッセージの中には彩加の名前もあった。本当に色んな人に迷惑と心配をかけてしまったものだ……
「ところで、Aちゃん?今日は、Aちゃんに見せたいものがあるのです!」
「え?なに?」
えっへん!と、なにやら自慢げに彩加に導かれた先にあったもの。それは───
「…ピアノ?」
「流石にグランドピアノは用意出来なかったんだけど、伊沢さんに頼み込んでアップライトピアノを用意してもらったの!」
それなりにきちんとした、何とも場違いにも思える重厚なアップライトピアノが部屋の隅に置かれていた。
え、何のために…?と頭を悩ませるも直ぐにその疑問は解決した。確か先月新しく入ったライターさんが音楽系のライターさんで、とんでもなく音楽の才能に溢れた人だとかなんだとかで、オフィスで盛り上がっていたのを傍目で見た気がする。
「新しく入った恵比寿さんの為だけじゃなくて、個人的にAちゃんにピアノ弾いて欲しくて私が伊沢さんにお強請りしたの!」
「え?!こんなピアノをポンッと買えちゃう人なの?!伊沢さんって!」
グランドピアノこそ桁が違えど、アップライトピアノもウン十万はするだろうに…恐ろしい…
お金の使い方が心配になるほど…いや、私の為に買ってくれたんだ、これは仕事で返さねば…
「でね、ピアノ買ったんだから何かサブチャンネルに適当に動画あげといて〜って頼まれちゃったから。Aちゃん、何か弾いてくれる?」
「え!ちょ、無理無理!」
何故かあそこの喫茶店でピアノの音を聴いていたら勝手に指が動いたのは確かだけど、私はピアノが弾けるのかどうなのかも分からないのに!記憶だってあやふやで、とても動画にあげられるような腕前じゃ…
そんな抵抗も虚しく、ピアノの腕より知識で挽回すればいいじゃん!と伊沢さんに突っ返されてしまい、仕方なく私と彩加の共同で動画の撮影に挑む運びとなった。
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年7月29日 19時