忘れ去られた日記帳 ページ22
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「え……今の…拳、くん……?」
どうして、拳くんが…?幼稚園で引っ越してからあれっきり会ってなかったんじゃないの?
拳くんだって、お母さんだって幼稚園以降会ってないって言ってたのに……
夢の中の私と拳くんは、高校生だった。しかも大学も同じ東京に行こうとして……
……東京大学ではないけれど、確かに私は早稲田大学に進学していた。何故、早稲田を目指したのか。何故、理系に進んだのか。当時は正体不明の何かに突き動かされるように無我夢中に、必死になって勉強して、進学したのだ。
その、正体不明の何か。が今ならよく分かる気がする。この夢を見たおかげで。
「幼稚園以降も…会っていたの…?」
確信は持てなかった。夢の中の出来事だし、私が勝手に作り上げたストーリーだと断言することも出来る。だけど、ここまで自分の人生にしっくりくる夢を見るのもまた不可解なものだった。
……夢の中の出来事が、本当に現実にあったことだとして…、お母さんや拳くんが『幼稚園以降は会っていない』と嘘をつく理由もよく分からない。会っていたという事実が私に何かしらの不都合をもたらすのか。あるとすれば…あの事しかないのだが……
考えれば考えるほど、心臓がどくんどくんと激しく波打ち、痛みを覚えるほど。頭も痛くなってきて、呼吸も少し乱れがちになってしまった。
これ以上考えても分からない。今日はもう考えるのをやめよう。再び布団に潜り込んで考えないように他のことを考えていると、またもや気づけば眠りについていた。
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「……本っ当に、すみませんでした」
「まぁまぁ、今回は初めてだし。客先との打ち合わせとかで寝坊した訳じゃないから」
「…すみません。以後気をつけます」
あれから、随分と深い眠りについていたみたいで再び目を覚まし、時計を見たときには既に10時を過ぎていた。急いで支度をして家を飛び出して、オフィスに着いたのは11時。 どうやらサブチャンネルの撮影でカメラが回っていたみたいだが、そんなこともお構い無しに真っ先に伊沢さんの元へと謝罪に向かったのだ。
「でも、スマホはきちんと充電して寝てくれよ?何度連絡しても繋がらないから事故にでも巻き込まれたかと思ってみんな心配してたんだから」
「はい…すみません」
スマホには色んな人からの着信履歴で埋まっていて。それを見た時は青ざめて、余計に慌ててしまった。これを機に帰ってから直ぐにスマホを充電する癖がついたのは言うまでもない。
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年7月29日 19時