泣くように笑う貴方は、 ページ14
.
「え!何これ、ちょー美味い」
「お口に合ったようで何よりです」
「Aさん、料理上手なんだね」
「一通りの事は母に習いました」
キッチンと冷蔵庫内のいくつかの材料を借りて、即席のおかずをいくつか作ってテーブルに持っていった。
もちろん1人で食べるつもりもなかったから作業していた皆さんを呼んで。
「福良、きちんと残さず食べなよ?」
「……分かってるよ」
「……あ、何か苦手なものありました?すみません……」
そういえば、何が苦手か聞かずに作っちゃったな。アレルギーとかあったかな。
申し訳ないなと思っていると河村さんに「いーのいーの。福良に合わせてたらご飯お菓子になっちゃうよ」なんて言われた。……お菓子が、ご飯になるの…?
「え、福良さんもしかして…」
「そうだよ。福良さん、好き嫌い多いのよ」
「多いどころじゃないでしょ、野菜全般嫌いなんだから」
「野菜嫌い……」
確かに福良さんがさっきから大皿のおかずから、野菜を取る姿を見ていないかもしれない。そうか、福良さん、野菜嫌いなんだ……
───やさいたべないと、おおきくなれないよ!
───たべなくても、なれるもーん!
「痛っ…!」
「Aちゃん?大丈夫…?」
何…今の……
また、だ。幼い頃の私が、誰かと話しているのが頭に流れ、再びあの頭痛に襲われる。思わず手から箸がテーブルに落ちてしまった。心配そうに私を見つめる須貝さんから箸を受け取って、流しに洗いに行くとふと福良さんと目が合った。
───けんくん!ほら、にんじんたべなよ!
───いやだー!たべたくないー!きらい!
「けん……くん……」
「………え?」
「あれ……、えっと……」
今、私けんくんって言った?けんくんって…あの、けんくん?
いつも私の謎の夢の中に出てくる、けんくん…けれども、あの夢の中のけんくんは、高校生だ。さっきから私の頭にチラついているのは、もっともっと幼い頃の……
「どうしたの、Aさん。福良がどうかしたの?」
「え?福良さん?」
「けんくんって、呼んでなかった?」
「ああ、そういえば福良さんの下の名前って拳だったよね」
「……そうだね」
福良…拳
ふくら…けん
拳…くん?
「野菜嫌いの…拳くん……?」
「え…?」
「……幼稚園で、いつも野菜が食べられなくて泣いてた…拳くん?」
そう話しかけると、福良さんは泣きそうな顔でふにゃと笑い、そうだよ。と小さく一言呟いた。
.
215人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年7月29日 19時