Prolog ページ2
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«A!けんくん映ってるわよ!»
«え!どこどこ?!»
……またあの夢だ。
白いモヤモヤから見えてきたのは、母親と必死になってテレビにかじりついている、昔の私。今まで興味も無かったが、そのけんくんが出ると聞いて初めて見た番組に興奮している母娘の姿が見えた。
«いたー!すごい!本当にけんくんだ!»
«お父さん呼んでこようかしら!お父さーん!けんくん出たわよー!»
夢の中の私は、母親が父親を興奮気味に呼びに出て行ったのすら気にもとめず、ただひたすらにテレビに映っている彼に目を輝かせていた。
«けんくん…頑張って!»
……けん、くん?
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「っは……、はぁ…はぁ…」
また、だ。けんくん。たまに出てくる夢の中でしか会ったことのない人。名前も下の名前しか知らない。何故かいつもそのけんくんが映っているというテレビ番組を母親とふたりで見ている夢。そして、ドキドキする胸。この気持ちはなんなの?けんくんって誰なの…?
私が知ってるけんくんは、幼稚園で仲が良かった男の子しか知らない。母親から聞いただけであんまり覚えていないのだが、その子もそれ以降会っていないはず。だから、その後の私の人生にけんくんは関わっていないはずなのだが、夢の中の私は恐らく高校生…
高校でけんという名前の男子がいたかどうかも、あまり思い出せない。
「……水のも」
乾いた喉を冷たい水で潤す。ごくごくと、冷たい水を飲む度喉が鳴る。いつもあの夢を見るとうるさいくらいになる鼓動と、起きると必ず汗がびっしょりで。
外がまだ暗い。時計を見れば、まだ真夜中3時。明日朝早いのに…、上手く寝付けるといいけど…大きな欠伸をひとつ。のそのそとベッドに戻り、眠りについた。
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年7月29日 19時