第三話 ページ6
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『!・・・これ、私のだ・・・・・・』
でも、どうしてこんな場所に、こんな無惨な姿で?
・・・これも、記憶が戻れば分かるかもしれない。
『・・・行こう』
壊れたスマホをバックの中に入れて、また歩き出した。
コツコツというローファーの音だけが辺りに響く。
矢張り、何かが可笑しかった。
車の音もしなければ、話し声もしない。
人の気配が、しなかった。
『何か怖いな・・・』
周りはなんて事ない、静かな住宅街の一角。
・・・そういえば、ここは蓬莱町なのかという事を確認していなかった。
もしかしたら違う町の可能性もあるかもしれない。
電線を見てみると、そこには確かに蓬莱町、と書かれていた。
『・・・』
やっぱり可笑しい。
何だか、此処は現実とは違う、別世界のように感じられた。
『・・・人を探そう』
自分の体を抱き締めながら、人を探して足を動かす。
別れ道も適当に進んで。
そうやって適当に進むことおよそ十分。
だだっ広い道の奥の方に、大きな川と橋が見えた。
そして、その橋に寄りかかって空を見る老人の姿も見えた。
『・・・!』
沈みかけていた心を再び呼び覚まし、小走りで老人の元へと進む。
『あの!』
私が声を掛けると、老人は此方を向いた。
「?お嬢さん、どうかしたのかい?」
人の良さそうな老人はそう言った。
『それが・・・私、記憶を無くしてしまって・・・』
私が老人に話すと、老人は悲しそうに言った。
「・・・そうか。」
『?』
どうして老人が悲しそうな顔をしたのか分からなくて、思わず首を傾げる。
「・・・神の気まぐれ、じゃな」
老人はゆっくりと話し始めた。
「お嬢さん、この世界が何なのかも知らないんじゃろ?
・・・この世界はお嬢さんや儂が居た世界とは別物じゃ。
蓬莱町___この町は古くから"結ばれた"地じゃった。
ここはその"結び目" 。中間地点・・・
絶対に助からないくらいの傷を負ったって"帰る"ことの出来た者もいたし、絶対に助かるはずだった奴が死んだこともある。
すべて曖昧な世界・・・
自分が生きるかどうかは自分の手で決められる___
・・・どれ、一つ教えてあげよう。
お嬢さんが生きたいと思ったなら北へ、死にたいと思ったなら南へ行きなさい。
この方位磁針はあげよう。
どうか、気を強く持って。」
老人はそう言って方位磁針をくれた。
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作者名:秒で消えたママ | 作成日時:2021年2月5日 20時