記憶の片隅で ページ49
「切るのか、髪」
「えっ…」
作業室で編曲やコーラスの案を練る俺の傍ら、組んだ足にギターを乗せて作曲に励むA。髪の毛が邪魔だからといつもおだんごに纏めているその姿が、俺は結構好きだった。
俺の尋ねたひとことに目を丸くするこいつは、なぜ俺にまで話が回っているのかがどうせ分からないだろうな。
「まさか…ドギョム？」
「違う。お前が練習生のとこ行ってる間に話し合ったんだよ。発端は、深夜に練習動画を見ながら泣くAを見た、っていうディノの報告だな。あいつ相当動揺してたぞ」
「……そっか、なるほど」
「お陰でホシは練習室にこもって、ずっとあの曲の練習動画を何度も何度も観てるよ。なにがどうして、Aの自信を削いだのかって」
いつになったら、お前は俺たちを信じてくれるんだろうな。
いつになったら、お前は自分自身を好きになってあげられるんだろう。
「……どうして違うことがいけないと思う？Aは、俺たちに馴染めば個性なんて必要ないと思ってるのか？」
「え、ううん…そんなことはないですけど」
「代わりがきかないから、俺たちは成り立ってると思う。仮に俺たちが、髪の短い、Aじゃないダンサーと踊ったとして。それは確かに馴染むだろうけど、観てる側はなんも面白くないぞ」
「…、うん、」
「AがAだから、俺たちは俺たちなんだよ。そこにAが居るから価値がある。髪の長さとか、もはや関係ないだろ。馬鹿か」
「……酷いですよ、バカなんて」
「バカだろうが。勝手にひとりで悩みやがって」
Aが怪我でいない間、何度か居ない状態でダンスビデオを撮った。Aに見せたことはないし、そのビデオの存在も知らないだろう。良くない想像しか浮かばなかったからだ。
俺たちはそれを見て、口々にこう言った。
"やっぱり足りないね"、"つまんないね"、"パズルのピースがひとつなくなった気分だね"。
自信を持って欲しいのに、どうしてこうももどかしい思いをしなきゃいけないんだ。
「…ウジオッパは、髪の毛切ってほしくないの？」
スーツケースを引く、Aの後ろ姿。
Aがまだ車椅子に乗っていた時、下ろした髪からAの使うシャンプーの匂いがするのが好きだった。
練習室で、気合を入れるAはよく髪の毛を縛り直しては、よし！と声を出していた。
最初に会ったあの日も、日光に照らされて光る黒髪をよく覚えている。
「……Aの髪、綺麗だって、ずっと思ってたよ」
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＊ゆいな＊(プロフ) - 更新待ってました（ ; ; ）最高です！今まで読んできたお話の中で一番大好きで何度も何度も読み返しました！！更新もちゅんちゃんさんのペースで無理しないで下さいね(*^^*)いつも応援してます！大好きです！ (2021年6月12日 11時) (
レス) id: 805ae0b089 (このIDを非表示/違反報告)
フィガロ - 更新はもうしれないのでしょうか（ ; ; ）？ 突然更新が途切れてしまったので心配です…お知らせなどでもいいので何か報告待ってます(^^) お話の内容とっても好きです！更新も楽しみにしていますm(_ _)m (2021年5月19日 0時) (レス) id: 2c85f96aa8 (このIDを非表示/違反報告)
＊ゆいな＊(プロフ) - 久々の投稿ありがとうございます！！！！ハニオッパきゅんきゅんしました！！ (2021年3月30日 20時) (レス) id: 805ae0b089 (このIDを非表示/違反報告)
もも(プロフ) - 更新待ってます！ (2021年3月5日 0時) (レス) id: 68c62b5d72 (このIDを非表示/違反報告)
さか(プロフ) - ふわふわした話だけじゃなくて、少し辛いお話が混ざってるのがとても好きです。でも、あまり過度ではなく直接的な痛い表現などは避けて書かれているのかなと伺えるので読んでいても辛い気持ちにはなりません。程よく読みやすくとても好きなお話です。 (2021年2月13日 6時) (レス) id: 4188621a8f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちゅんちゃん | 作成日時：2020年11月27日 8時
