突撃！となりのバンドマン(Keito.O) (ページ3)

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今日は私はお休みで大貴は出勤。

いつもよりのんびり起きてアイスティーを注いだ。

あの頃は毎日大貴にお弁当を詰めて持って行かせてた。
それが義務だと思ってたし、どこでもホイホイ人気者になっちゃう大貴の女避けになるならそれだけで良かった。

…だめだ。
なんで最近こんなことばっかり考えちゃうんだろう。

別れて正解。
このふたりが一番いい、はずで。

カーテンを勢いよく開けると雲ひとつない清々しい青空。

いつも閉め切った窓を少しだけ開けた。

空気の匂いがする。

なんて形容すればいいか分からないけど、『私は今、心地よい空気を吸ってます！』って実感出来るような匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。

空気を感じて体がひんやりする。

さて、掃除でもするか。

意気込んで袖を捲ると、

～♪
～～♪

…～♪
～～～～♪

ちょっと立ち止まって、同じフレーズが繰り返されたり、やっぱり戻ったり、
歌声？鼻歌？も時々混ざりながら

ぽろりんぽろりん…

とアコースティックギターみたいなウクレレみたいな
なんていうか、どこかあったかい木のぬくもり？的な楽器の音が聞こえる。

「お、となりさん？」

そう言えば引っ越してきたって聞いてはいたけど実際に会ったことはない『いかにも系イケメン』。

ばったり会ったらお蕎麦のお礼でも言おうって思いながら延び延びになって…
もう1ヶ月くらい経った？

「ひやしちゅか～はじめました～♪…ひ、ひやし…違うなぁ。ひやしちゅか～……これでもないなぁ」

………？

カラカラカラ、と部屋からベランダに出た私は思わず耳を疑った。

「ひーやし、ちゅーかぁ♪」

楽器弾いてると思ったら…
おとなりは、芸人さん？

大貴が言いたかったのはいかにも『芸人』なイケメン、ってことね。納得。

「そこは、『冷やし中華、はじめましたー♪』じゃないですか？」

私は大貴がベランダに少しずつ増やしていった多肉植物に水やりをしながら小声で伝える。

「え？」

「あ、隣人が出しゃばってすみませんでした。それじゃ失礼します」

「待って！！！」

頭にはハテナが浮かぶ。
”待って！”ってどゆこと？

すると間の抜けたぴんぽーん、が聞こえた。

「さっきの歌、なんていう歌か教えて！」

「…」

ギターのストラップを引っ掛けて、
必死の形相でうちのドアノブを握りしめる彼が、
きっと私のおとなりさん。