high & heel #sho

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___past time___

　




ゴトッ…と、グラスの倒れる音がして


その音の先へ目を向けると


4つほど離れたカウンターの席に座る若い男のテーブルから


ほんのりとライムが香る液体が


ポタポタと、床へ滴り落ちる







閉店間際の店内にはもうわたしと彼しかいなくて


マスターはやれやれ、と言った顔をしながらも


彼を優しい眼差しで見つめながらお水を差し出していて


わたしもなにかマスターのお手伝いを…そう思っておしぼりを片手に


彼の席へと駆け寄った





A『…大丈夫ですか？』



薄暗い店内なのに



小さい顔の半分以上を覆い隠すような、レンズの濃いサングラスをかけたその男は




紫耀『……やべ……ごめんなさい。俺、酒弱くて』





アルコールに赤く染まった頬だけが辛うじて見えるだけで顔なんてほぼ見えなくて


カウンターの上に組んだ腕の中に、顔を埋めながら


そう力なく話した





A『弱いならこんなとこ来ちゃだめですよ』





溢れたジントニックをおしぼりで拭きながら


少し呆れたようにわたしは言った






紫耀『………ですよね…笑』






自嘲気味に、掠れた声で笑うのが


なぜかすごく切なかった







紫耀『………眠れなくて、ずっと


毎日プレッシャーに…押し潰されそうで


……………俺がやんなきゃだめなのに』






誰に話すわけでもない


うわごとのように






紫耀『…どうしたらいいんだろ…』







ぽつり、ぽつりと言葉を零すその姿は


ぼろぼろの翼でもなお、羽ばたこうと必死に踠いてるようで


触れたら消えてしまうような…そんな儚さを持っていた








A『……あなたがどれほど大きなものを抱えてるのかは分からないけど

でも、あなたのそういう葛藤も、全部

受け止めて理解してくれる人が必ずいるから』






別に深い意味はなかった


名前すらも、彼がどんな世界で生きているのかも知らない


でも、もしもわたしの言葉で彼の傷が少しでも癒えるならいい


何故か、そう思った







A『…1人で抱えようとしないで、もっと、まわりに甘えていいと思う。

1人で抱え込む事が、強さなんかじゃないよ』






腕の中に顔を埋めたままの彼は、黙り込んでいて


余計なこと…言っちゃったかなって思った


でも、暫くして聞こえたのは






紫耀『………っ……ありがとうございます…』







小さく鼻をすする音と


喉から振り絞ったような、掠れた声


肩幅の広い大きな背中は


少しだけ震えていた






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