Give me Biscuits!

ぜんぶ思い出にしよう(藤原) ページ37

1/3 (恋人)





「A？話あんねんけど、今から行っていい？」



電話越しの声は少しくぐもってて、その分、丈くんの明るさも１割くらいカットされたように聞こえる。

うん、いいよ。

じゃあ出る。

気をつけて。

たったの二往復で電話は切れて、それからたったの２０分でピンポンの音が鳴った。



「ただいまー。」


「おかえりー。」



丈くんはうちに上がる時、必ず「ただいま」と言う。
実家暮らしの丈くんと一人暮らしの私には、お互いに「ただいま」を言える家が二つずつある。
けど、丈くんにはもうすぐ新しい家ができる。
2+1=3。



「外寒かった？」


「今日はまだマシやな。来週かららしいで冷えるの。」


「まじかー。じゃあ今のうちにベランダでカップ麺すすらな。」


「なんで？」


「冬に外であったかいもん食べたらしみるやん。」


「おん。」


「けど寒過ぎたら、食ってられん！死ぬ！てなるから。」


「わがままか。」



そう言いつつ、電気ケトルに水を注いでるのは誰だ。
床下収納にしまっていた秘蔵のカップ麺たちを、全部取り出して二人でテーブルの上に積んだ。



「シャンパンタワーならぬヌードルタワー。」


「上から湯注ごか？」


「怪我人出るわ。」



メンバーカラーを意識して、青いパッケージのものばっかり買うせいで、ラーメンの味は塩かシーフードに偏ってる。
丈くんはそのことに文句を言ったけど、湯を注ぐ頃には、この匂い腹減るわ〜なんて言いながら、機嫌良くキッチンタイマーの数字が小さくなるのを眺めていた。



「あんさ。」


「うん。」


「来週、向こうの家に荷物送るねん。」


「え、来週？」


「おん。で、木曜には俺も向こう。」


「え、えー。めっちゃ急や。」



引っ越しの予定って、そんな急に決まるもんなのかな。丈くんが黙ってただけ？
頭の中でもやもやが生まれたけど、そこをつつくのは野暮な気がしてやめた。
実際、丈くんの世界はすごいスピードで変わっていってるんだから。



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