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「何系の匂い?柑橘?」
カバンの中にあるレモンイエローのボトルを思い浮かべながら尋ねる。
唇をとがらせながら首をひねるのは、あざとい女の子みたいだよ、と教えてあげた方が親切だろうか。
あ、と何かに気づいた大橋くん。
目が合う。
彼のブレスレットの留め具が、私の机と当たってカチャと音を立てた。
目の前には、白い耳たぶ、シャツの襟。
そこから覗く黒いTシャツ。
「これや!この匂い!シャンプー?ちょっと甘酸っぱい感じのやつ!」
目線を横にズラしてはいけない。
「あー。」
危険。
「やっぱりAさんからやったわ〜。」
今私の顔のすぐ横にあるのは…
「そー。」
鼻先をくすぐる唐揚げの香り。
「何の匂いって言うんやろこれ……あれ?どうしたん?」
左耳からやたらダイレクトに響いてくるハスキーボイスのせいで、飛び跳ねる心臓を抑えるのに必死なのだ、とは、口が裂けても言えない。
「距離感。」
辛うじて呟いた一言で、大橋くんは現状を理解したらしい。
慌てて体を元の位置に戻して「ごめん!」と手を合わせて謝ってくれ…れば良かったのだけど、
「ちょっとだけ我慢して〜!もうちょいで何の匂いか思い出せそうやねん!」
現実の彼は甘くなかった。
そうだ、この人普段から距離感がおかしいんだ。
男友達とじゃれ合っている彼の姿を思い返せば、いつだって肩を組んで顔の真横で大声をあげていたことを、なぜ忘れていたのだろう。
すぅと息を吸い込む音に、意識を引き戻される。
鼻先が耳に触れそうな距離。
んーと考え込む声が耳の奥に響く。
もう周りの声なんて聞こえない。
「好きなんやけどなぁ。」
あぁぁ、あほか。ばかか。あほか。
分かってますとも、匂いが!好き!なんでしょうよ。
けど、休憩時間の教室で、こんなドキドキさせられて、この後どんな顔して授業を受ければいいんだ。
私の悶々たる想いなどつゆ知らず、大橋くんはまた鼻をクンクンさせる。
耐えきれなくなった私が、制汗剤のボトルを差し出して白状したら、
「俺もAさんと同じのん買お〜。」
だって。
大橋くん、私の心の平穏を返してください。
.
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三十谷みそ(プロフ) - くまさん» くまさん読んでいただいてありがとうございます!「中距離恋愛」はその次の「今日も今日とて…」とセットのお話ですが、その続きまでは考えていませんでした。。すみません!でも大ちゃんとのすれ違いは書いてて楽しかったので、いつかシリーズ化できれば…! (2022年2月21日 23時) (レス) id: 0083c24134 (このIDを非表示/違反報告)
くま - 主様のお話いつも読ませて頂いてます!中距離恋愛の続き楽しみにしています! (2022年2月21日 0時) (レス) id: 0f63c42052 (このIDを非表示/違反報告)
三十谷みそ(プロフ) - 葉乃さん» 西畑には流星か大橋くんに背中押されてがんばってほしいです(笑)あ、やっぱり!読み方でHano.さんかな?と思いました!新アカウントでも読んでもろてありがとうございます! (2022年2月18日 18時) (レス) id: 0083c24134 (このIDを非表示/違反報告)
葉乃(プロフ) - 女の子と西畑くんやっぱりすれ違ってんじゃん!!小出しじゃなくて丸出しでいけよ!さっさとくっついてくれんとこっちがもどかしい!!あ、色々あってアカウント変えたんですけど、Hano.です!みそさんの書く文章大好きなので、これからも頑張ってください! (2022年2月18日 0時) (レス) @page48 id: 6481b17959 (このIDを非表示/違反報告)
三十谷みそ(プロフ) - Hano.さん» 切ないの好きなんですよ〜!あぁぁ…て苦しくなりながら書いてます(笑)Hano.さんのコメントめちゃくちゃ嬉しくて、いつも励まされてます!ありがとうございます。 (2021年11月22日 19時) (レス) id: 0083c24134 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:三十谷みそ | 作成日時:2021年8月5日 23時