君と 3

怒ってる？ ページ39

西島君の空気が変わった。
じっと私を見据えてる。
その鋭い視線に縛りつけられたように、私は彼から目が離せない。



動けない。



このままここにいちゃいけない。
わかっているのに動くことができない。



西島君は上着を脱いで椅子に掛けると、ゆっくりと私の方へ近づいてきた。
ネクタイを緩めながら。



無言の圧力。



これは、怒ってる…
どうしよう。
動悸が激しくなってきた。



彼は私の隣に座った。
ソファの背もたれに右肘をついて、体を私の方へ向けてじっと私を見てる…



こわくてそっち、見られないんですけど…
すごく、凝視されてる。



『二次会楽しかった？』



「うん…」



『あいつと一緒に飲んでたの？』



「百合子と美咲も一緒だったよ」



『俺が止めなかったら、あいつと一緒に2人で飲みに行ってた？』



西島君は意地悪だ。
行くわけないじゃない。
そんなのわかってるでしょ。
わざと質問してる。



なんか一方的に責められていて、泣きたくなる。



『なんで？ 送ってくって言ったでしょ。俺、まだ怒ってるんだけど』



「…ごめんなさい」



『理由は？』



言えないよ。
西島君が今さら遠く感じて不安になったなんて。
ファンの子と一緒にいるのを見てるのが嫌だったなんて。
立ち聞きしちゃったことも言えない。



『ふっ、頑固。さっきキスした時は素直でかわいかったのに』



「やめてよ…」



もう本当に意地悪。



『ねぇみお、俺を見て。質問に答えて』



西島君はそう言って私の左手を取った。
私は彼のこの言葉にとことん弱い。



ゆっくりと左側を向けば、ほら、つかまった。
西島君の熱くて、甘い瞳に。



『みお、思ってること、教えて。迷いや不安があるなら話してほしい』



もう西島君から怒りの感情は感じられない。
その代わり、少し不安そう。



私の左手、その指先を撫でる彼。



これ、西島君の癖。
不安な時や何か考えている時に、こうやって私の指先を優しく、ゆっくり撫でるの。



恥ずかしいけど話そう。
くだらないって笑わない？



「遠く感じたの。西島君の事を」



『俺を？』



「そう。女の子に囲まれて握手して、サインや写真を断っているのを見て、やっぱり芸能人なんだなって。私の知らない西島君だって思って寂しくて。それに…」



どうしよ…
こんなこと、言っていいの？
西島君、嫌な気持ちにならないかな。

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