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「まあ、頑張って私を口説き落としでもしてみたらどうだい?気が変わるかもよ?」
ふくろうは、いたずらするように微笑む。
「僕が太宰みたいなことするわけないじゃん」
「でも、見ていてとても微笑ましいよ。あの手この手で私を呼び出して、お茶だのデェトだの」
「……」
「ふふふ。いつも乱入してくるくせに、やきもちかい? 」
ふくろうは、そう云って楽しそうに笑った。
「……」
「お詫びに夕飯でもご馳走するから、そんなに拗ねないでくれ」
「別に」
そう云ってそっぽを向く乱歩に、ふくろうは悲し気に云う。
「君が、私に帰ってほしくないと思っているのが、彼女が彼に死んでほしくないと思っていた感情と同じなのであれば、私はそれをよく理解できる。でもね、この体の持ち主は、私ではないんだ。記憶を失った体に、私という人格ができただけに過ぎない。きっと、元の世界に戻れば、失った記憶も取り戻せるはずなんだ。本当の持ち主に、この体を返すことができる。私が奪ってしまった彼女の時間を返すことができる。だからどうか、わかってはくれないか?」
「そんなの……わかりたくない……。誰も君が消えることを望んでないのに、どうしてそれから、目を背けるんだよ……」
「……」
乱歩の言葉に、ふくろうからの返答は無かった。
静寂と冷たさに包まれた部屋で、紅茶だけが相変わらず湯気を立てていた。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時