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「成功だ」
私の記憶の始まりはその言葉だった。
そして、見た光景は、大喜びする人々の姿。
そんなに多くない。10人かそこらの人たちだった。
一体何が起きたのか。
私は、自分の姿を確認した。
手を見つめ、開き、閉じる。うん、ちゃんと動く。
次に格好。自室にいた時の姿のまま。ラフなパーカーの下に、暖房で暑いからと寒い季節なのに、半袖のお気に入りのTシャツで、下はスキニーパンツ。靴下を履いた足には、当然の如く靴はない。
そして、状況を確認。
私は、自室で宿題をしていた。証拠に私の左手には、シャーペンが握られたままになっている。だが、真面目にやっていたわけじゃない。スマホで動画を流しながら、半分やる気なく、半分寝かけて、ゆっくり、本当にゆっくりと問題を解いていた。
やっていたのは数学。ぼんやりした頭だったし、寝かけていたからこれは夢かもしれない。
そういう結論に至り、私は左手のシャーペンの先で右手の甲を刺してみる。
夢なら痛くないだろうし、運が良ければ飛び起きるかもしれない。
けれど、右手の甲は痛み、目の前の光景や、聞こえてくる意味不明な言葉も変わらない。
「この頁は、一体どれほどのことができるんだ?」
「違う世界から人を呼ぶことさえできた」
「この本の制約さえ守れば、なんでも実現可能なのか?」
「では、無からも人を生み出せるのではないか?」
顔を上げ、周囲を見渡す。
スーツ、白衣、着物。格好に統一性はないが、スーツと白衣が多い。
部屋はすべてが白く、正面奥の壁にはめ込むようにガラス窓があり、その先にも数人いるのが見えた。
アニメや漫画で見る研究施設や実験施設、あるいは取調室のような印象を持った。
何が起きたのか。
もう一度、己に問う。
どうしてここにいるのか。これが夢ではないとしたらなんなのか。
ぼんやりと霞がかる頭はついに思考を放棄し、部屋に支配されたかのように、私の頭は真っ白になり、そして、暗闇に包まれた。
次に目が覚めた時、私は、白い部屋であったこと以外、考えたこと以外、全てを忘れていた。
私の名前も、私が持っていたという筆記用具の使い方も。
私がどこからきて、どうしてここにいるのか。
黒いスーツの男が教えてくれた。
私は異世界から来て、実験のために呼び出された。
白い部屋で思った感情が、男の言葉の信憑性を高める。
あの部屋での記憶は、私にとっては違和感のあるものだった。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時