深紅の物語 (ページ35)

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「ちょっと、立てるか？」

イース・リヴェルタを寝室に運んだウィステリア・レインは、コウ・クルススのそばに寄って言う。

「…それくらいは、できる。」

赤ん坊でもあるまいし、と言いたげな表情のコウ・クルススを見て、ウィステリア・レインはすっかり安心しきった。

「それくらいは、元気があるみたいだな。」

コウ・クルススは、思わず肝心なところを聞き返す。

「表情は、お前に見えないはずだ。」

「まあ、感というやつだな。」

ウィステリア・レインがクスッと笑う。

コウ・クルススは、被っていても意味がないであろうぶかぶかなフードをゆっくり外す。

「肩を貸してくれるか。」

「もちろん。」

ウィステリア・レインは、頼られたことが嬉しいのか、微笑む。

コウ・クルススは、少し身長は上のウィステリア・レインの肩に手を乗せる。

ウィステリア・レインの筋肉質な腕が、コウ・クルススに回る。

「本当に、大丈夫か？」

再度、聞かれた。

「大丈夫だ。」

強がってはみるものの、やはりもう限界ではあった。

目の前が回って、思うように歩けない。

ウィステリア・レインが、自分の歩調に合わせてくれるのがわかる。

はやめようとはするが、一歩一歩が重たく、進まない。

試行錯誤しているうちに頭痛までひどくなってきた。

頭痛のせいか、気分の悪さも最高潮である。

「顔色、相当悪いけど…？」

ウィステリア・レインが、突然立ち止まったコウ・クルススを見て、つぶやきとも取れる小ささでいう。

「もう限界じゃないのか。」

コウ・クルススの部屋までは、あと数十メートルである。

今更、この広い家を憎んだ。

「…大丈夫だ。」

目を開けられなくて、瞼を閉じる、正直な自分がいる。

でも、なんとか理性を保ち、部屋には着きたいと思う自分もいる。

「もう少しだから、頑張れ」

ウィステリア・レインが励ましてくれる。

一歩を踏み出す。

今度は、ふわふわとした感覚が、コウ・クルススを襲った。

なんだか、それはそれで気持ちが悪い。

夢中になって、足をただただ、運んでいるだけだった。