episode96 ページ6
「お帰りなさい、Aさん」
車のドアを開け、爽やかに微笑むすばる。
そのイケメンさに、周囲の女子高生たちが黄色い悲鳴を上げ、中庭を掃いていた掃除のおばさんが卒倒している。
そして私はその中を、松葉杖を引きづりながら、首を縮めて歩く。
……最悪だ。迎えに来いなんて、冗談でも言うべきではなかった。
あれから言葉通り、赤井さんは毎朝フライパンを持って、私の部屋にモーニングコールしにやって来る。朝食を作ってくれ、車で学校まで送ってくれる。
そして帰りもご丁寧に校門前まで迎えに来てくれるというわけだ。
なにせすばるは目立つ。背が高いし、文学青年みたいな顔をしている割にはガタイがいい。(赤井さんだから当然だ)
極めつきは、この優しい声と紳士ぶった挙動である。
すばるは登校初日には、校門前に立つ教師から怪しまれ尋問を受けていたものの、その甘いマスクと声音で帝丹高校の教師から掃除のおばちゃんに至るまで、全ての女性教職員を籠絡せしめて、今や学校公認の「お迎えお兄さん」である。
しかも毎度登校するたび、この騒ぎ。
今まで噂の種にもなったことのないこの私が、スクールカーストの上位にしか居たことありませんみたいな女子から休み時間に呼び出され、「あの人、誰なの!!? 彼氏なの!!?」 「違うよね? お兄さんだよね?」「親戚って聞いたんだけど?」「今度紹介してよ!!」と怒涛の質問攻めを喰らう始末。最悪である。
当初はバイクで登校している世良ちゃんが、家まで送ると申し出てくれていたのだが、すばるのせいで完全に立ち消えになった。
私は世良ちゃんと帰りたかった。
面倒くさいことにならないうちに、私はさっさと車に乗り込む。
羨望と嫉妬が入り混じった視線を、窓越しにひしひしと感じたが、気づかないふりでごまかす。
「今日は高木刑事のとこに行かなくちゃ…」
「そうだったな」
怪我をして1日麻酔で寝込んでいたせいで、私はまだ、正式な事情聴取を受けていなかった。
すばるが警視庁に車を走らせてくれる。
「すまないが、俺はここで待っている」
まあ、すばるとしては、できるだけ警察関係者のごろごろ居るところにはいたくないのだろう。
何せ、本来の姿を偽っている身なのである。
うなずいて私はよろよろと警視庁の扉をくぐった。
足って大事なんだな、と骨折してから改めて気がつく。
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やっち(プロフ) - 更新お待ちしてます (2022年4月22日 11時) (レス) @page23 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
みー - 主人公ちゃんも赤井さんも魅力的で何度も読み返しちゃいます、、いつかまた戻って更新されてるの楽しみにしてますね! (2021年8月31日 20時) (レス) id: fa7939d4a9 (このIDを非表示/違反報告)
S(プロフ) - 面白かったです。更新楽しみにしています!!! (2021年6月2日 2時) (レス) id: 3c947ce476 (このIDを非表示/違反報告)
ふわ - めっちゃくちゃおもしろかったです! (2021年4月23日 17時) (レス) id: 1d6a9bd8f3 (このIDを非表示/違反報告)
キサキ(プロフ) - 面白くて何度も戻ってきて読んじゃいます、更新お待ちしております頑張ってください!!! (2020年10月20日 10時) (レス) id: a8bb3b0a09 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海星 | 作成日時:2019年9月30日 12時