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episode95 ページ5

こんなに泣いても、まだ、泣き足りないくらいに。

赤井さんに嫌われることが、こんなに苦しいだなんて、想像もつかなかった。
誰かに背中を向けられることが、こんなにも恐怖だってことも。


「……悪かった」

赤井さんが背の高い体を折り曲げた。頭を下げているのだと気がつくまで、数秒かかった。

「………ばか」

「悪かった」

「FBIのくせに!!! 赤井さんのばか! あほ! すっとこどっこい!! おたんこなす!! ニット帽!! シスコン!!」

「………すまん」

ムカついたので、私は泣きながら近くにあった赤井さんの携帯を投げる。
赤井さんは眉ひとつ動かさず、素早くキャッチした。くそくらえ。

「悪かったとか、すまんとかしか言えないわけ!!? 絶対に許さない……ことはないけど、しばらくは許さないから!!!」

ヒステリックに叫ぶ私に、赤井さんが口元を歪めて笑いだした。何がおかしいんだ、この鬼畜FBI。


ふいに目を細め、優しい仕草で私の髪の毛を撫でる。

「…許してくれるのか」

「……そうしないわけにいかないじゃん」


だってこのまま喧嘩していたところで、何になる?
赤井さんと仲直りできて、嬉しいのはこの私の方なのにさ。
本当はサンバでも踊りたい気分だ。威厳と骨折のため自粛してるけど。


「そうか。ありがとう」


赤井さんがぎゅっと抱きしめてきた。
今度はアメリカン式の友情ハグで、ふつうに痛い。切実にやめてほしい。


「痛いんだけど」

「そうか」

「あとまだ、許してないからね。いずれは許すってだけで、今は許してないからね」


分かった分かったと、笑う赤井さん。分かっている様子はあまりない。


「さしあたっては、学校の登下校のお迎え、モーニングコール、ショッピングの荷物持ち……あたりで手を打ってあげようかな?

あ、それからフカヒレスープね。

あと服も何着かほしいな〜、できれば毛皮のコートとか?」


調子に乗って言っていたら、赤井さんがいきなりお姫様抱っこして、私をソファの上に乗せた。
始終真顔で、なぜか嫌な予感がする。

赤井さんは私の手をとると、そっと自分の唇に持っていく。

「あ、あのう…赤井さま〜……」


冷や汗をかきだした私に構わず、赤井さんは相変わらず真剣な顔で、私の手の甲に接吻した。

ちゅ、という恥ずかしい音が響く。


「全て仰せのままに、princess」


血の気が引いたのは、いうまでもない。

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やっち(プロフ) - 更新お待ちしてます (2022年4月22日 11時) (レス) @page23 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
みー - 主人公ちゃんも赤井さんも魅力的で何度も読み返しちゃいます、、いつかまた戻って更新されてるの楽しみにしてますね! (2021年8月31日 20時) (レス) id: fa7939d4a9 (このIDを非表示/違反報告)
S(プロフ) - 面白かったです。更新楽しみにしています!!! (2021年6月2日 2時) (レス) id: 3c947ce476 (このIDを非表示/違反報告)
ふわ - めっちゃくちゃおもしろかったです! (2021年4月23日 17時) (レス) id: 1d6a9bd8f3 (このIDを非表示/違反報告)
キサキ(プロフ) - 面白くて何度も戻ってきて読んじゃいます、更新お待ちしております頑張ってください!!! (2020年10月20日 10時) (レス) id: a8bb3b0a09 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:海星 | 作成日時:2019年9月30日 12時

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