episode93 ページ3
涙が頬を伝って、赤井さんの着ている黒いシャツにぽつぽつと染みを作っていく。
それをぼんやりと見つめていたら、抱き起こされて、赤井さんが私の顔を両手で包み込んだ。
エメラルドグリーンの瞳が、私を覗き込んでいる。
私はその光を、ぼうっと見つめていた。
「……悪かった。本当に、すまなかった」
君を疑ったりして。
赤井さんは、目をそらすことなく、私を見つめ続けている。
「君に、礼を言わなくてはいけない……妹を、助けてくれてありがとう」
「いもうと?」
「真純だよ」
「ま、すみ……」
その瞬間、私の脳裏にある映像がよぎった。
驚愕と焦りを浮かべた、女の子の顔だ。私が何か叫んでいる。だけど、と躊躇う女の子に、「行って!!!」と私はなお言い募る。
……世良、ちゃん。
私の記憶はその後、すぐ暗転する。
階段を転げ落ちる。狂ったような音が、警報装置のように頭の中で鳴り響く。
それが怒号になったり、銃声になったり、世良ちゃんの叫び声になったりする。
私は気がつくと、殆ど悲鳴に近い叫び声をあげていた。
自分でも自分の叫び声に驚いて、また悲鳴をあげる。
パニックになって暴れ出した私を、誰かが強い力で抱き寄せた。
そのまま抱きしめられて、背中をゆっくりと大きな手がさすっている。
「落ち着け……大丈夫だ」
「いやぁっ……!!!! いやぁぁぁぁ!!!!」
「大丈夫だから。俺がいる。もう心配するな」
ゆっくりと、言い聞かせるように、何度も大丈夫、大丈夫と耳元で囁かれる。
強い力で抱きしめられて、身動きがとれない。体を捩って抵抗すると、今度は頭ごと抱え込まれた。
「深呼吸しろ」
命令口調だったが、優しい声だった。
頭の中で爆発しそうなほど鳴り響いていた警報装置が、その声にかき消されて、かわりに静けさが戻ってくる。
大丈夫だ、という赤井さんの声がまた、耳に聞こえてきた。
泣きすぎて過呼吸になっている私をあやすように、赤井さんはずっと背中をさすってくれている。
「目を閉じろ」
私はゆっくりと目を閉じる。
「深呼吸」
「……は、い」
何度か深呼吸を繰り返したら、やっと正常な呼吸が戻ってきた。
おそるおそる顔を上げると、赤井さんと目があった。
きっと、泣きまくってひどい顔だろう。
私が思わずうつむくと、なぜか赤井さんがよしよしと頭を撫でた。
赤井さんらしくない、なんだか割れ物に触るような、おそるおそるといったような優しい撫で方だった。
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やっち(プロフ) - 更新お待ちしてます (2022年4月22日 11時) (レス) @page23 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
みー - 主人公ちゃんも赤井さんも魅力的で何度も読み返しちゃいます、、いつかまた戻って更新されてるの楽しみにしてますね! (2021年8月31日 20時) (レス) id: fa7939d4a9 (このIDを非表示/違反報告)
S(プロフ) - 面白かったです。更新楽しみにしています!!! (2021年6月2日 2時) (レス) id: 3c947ce476 (このIDを非表示/違反報告)
ふわ - めっちゃくちゃおもしろかったです! (2021年4月23日 17時) (レス) id: 1d6a9bd8f3 (このIDを非表示/違反報告)
キサキ(プロフ) - 面白くて何度も戻ってきて読んじゃいます、更新お待ちしております頑張ってください!!! (2020年10月20日 10時) (レス) id: a8bb3b0a09 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海星 | 作成日時:2019年9月30日 12時